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2009年9月14日 (月)

高橋道雄九段の講演会で考えたこと(1)-40代後半での復活の理由

一昨日(2009年9月12日)午後から、豊島区の千早文化創造館で開かれた将棋のプロ棋士高橋道雄九段の『将棋の世界』と題する講演会を聞きに行った。

講演は、14時からのスタートで、前半1時間が高橋九段の講演、後半1時間が今期(第68期)のA級順位戦初戦で高橋九段が佐藤康光九段に勝った将棋の大盤解説という構成。大盤解説の聞き手役として、井道千尋女流初段の姿も見えた。

高橋九段の講演で印象に残ったことを二つ書いてみたい。まず一つめは、50歳を目前にしての高橋九段の復活についてである。

高橋九段は、現在、将棋界のトップ棋士の証明ともいえるA級(10名)と竜王戦ランキング戦1組(16名)の両方に名を連ねている。順位戦は、前回A級からB級1組に陥落してから4年間B級1組で戦い、前期(第67期)B級1組で8勝4敗で1位となり、深浦王位、久保棋王、渡辺竜王といった年下のタイトルホルダーを抑えて、3回目のA級復帰を決めた。
竜王戦でも17期(2004年)に1組から降級し、18期以降ランキング戦2組で戦ってきたが、前期の第21期(2008年)に2組3位となって、今期第22期は1組に復帰。復帰するや、1組3位となり挑戦者を決める決勝トーナメントにまで駒を進めた。
考えてみれば、名人戦・竜王戦で、A級(含む名人)と1組(含む竜王)の両方に名を連ねるのは、高橋九段のほかには、羽生善治名人、佐藤康光九段、丸山忠久九段、郷田真隆九段、木村一基八段の5人だけである。皆30代であり、その中で来年4月に50歳を迎える高橋九段がその地位に復活したということは、特筆すべきことだろう。

高橋九段は、自らを大山康晴、中原誠、米長邦雄といったかつてのトップ棋士たちが将棋界にまだまだ一線級として活躍した時代に、谷川浩司九段を後を追い、55年組と言われた南芳一、塚田泰明、島朗、中村修など一度はタイトルを獲得した同世代の棋士たちと、それまでの将棋界に新しい風を吹き込み、風穴を開けたと語った。しかし、共に戦った同世代の棋士も、谷川九段以外は、B級2組以下のクラスに落ちてしまっている。

高橋九段によれば、棋士も40代になると、下を見るようになるのだという。それは、タイトル獲得や棋戦優勝という高みを目指して努力を続けるより、まだ自分の下にはこれだけいるということで安心してしまい、いつか努力を続けることが疎かになってしまうということだろう。
最近では、自分よりも後輩の棋士たちの中にも、下に落ちていく棋士が増えて来ているとも語った。

それに対し、高橋九段は、人生はこれからも続いていくものであり、過去を振り返るのではなく、常に、「現在(いま)をどうするか、これからどうするか」を考えているという。一朝一夕で何かができるわけではないので、日々の積み重ねを大切にし、向上心を持って過ごすこと、と語っていた。

具体的には、現在は、対局に加え、師範として女流棋士の指導、地元の小学校で小学生に将棋を教えること、さらに将棋の本を執筆で、多忙だという。
高橋九段の書いた将棋の本をネットで検索すると、タイトルを争っていた1980年代後半に数冊、98年に詰将棋の本が出版されているが、その後は2005年以降に集中している。
例えば、『寄せの極意』という本は2008年2月に出版されているが、自らの実戦譜での寄せ手順をいろいろなケースに分けて解説している。読むと、この局面でなぜそのように指したのか、プロ棋士の考え方がアマチュアにも解るように丁寧に解説されている。

寄せの極意―対居飛車、対振り飛車を徹底解説 終盤の華麗な技で勝利をつかめ! (スーパー将棋講座)

講演での高橋九段の話を思い出し、『寄せの極意』を読んで思ったのは、将棋の本を書くということは、これまでの自分の将棋を見直すことであり、高橋九段は、その作業の中で、自らの強みを再発見したのではないかということである。
高橋九段は、最近では「先手なら矢倉、後手なら8五飛戦法しか指さない」と発言している。自らの得意戦法に自信を持っているからこそいえる言葉だろう。

将棋連盟のホームページの年度別成績から高橋九段の成績の推移を見ても、復活の軌跡がわかる。

2000年度 43戦28勝15敗 勝率0.6511(B級1組-7勝5敗)
2001年度 42戦24勝18敗 勝率0.5714(B級1組-7勝5敗)
2002年度 34戦12勝22敗 勝率0.3529(B級1組-2勝9敗)
2003年度 30戦17勝13敗 勝率0.5666(B級1組-9勝3敗)
2004年度 25戦08勝17敗 勝率0.3200(A級-1勝8敗)
2005年度 30戦10勝20敗 勝率0.3333(B級1組-4勝8敗)
2006年度 30戦16勝14敗 勝率0.5333(B級1組-8勝4敗)
2007年度 34戦19勝15敗 勝率0.5588(B級1組-7勝5敗)
2008年度 39戦24勝15敗 勝率0.6154(B級1組-8勝4敗)
2009年度 9戦3勝6敗 勝率0.3333(A級-2勝1敗)

1960年生まれの高橋九段は2000年が40歳。ちょうどここに載っているのは、40代での成績である。前回のA級復帰の2004年度、A級で1勝8敗に終っただけでなく、他の棋戦も含め8勝17敗と絶不調。翌2005年度、陥落したB級1組でもあわや降級かという成績で、勝率3割台が2年続いた。
並の棋士なら、ここで自分の限界を感じて諦めてしまい、下のクラスに転落してもおかしくなかったと思うが、高橋九段はここから復活する。2006年度には再び勝率5割を超え、昨年度2008年度は2000年度以来8年ぶりに勝率6割を超え、順位戦、竜王戦ともトップクラスに復帰したのはすでに説明した通りだ。ちょうど、将棋の本の出版が増えだした頃から成績が上向き始めたのは偶然ではないだろう。

私がこのブログで常々テーマとして意識してきた「中年クライシス(中年期の危機)」に、高橋九段も40代前半から半ばにかけて遭遇したのだろう。将棋の本を書くことで、自らの力を再確認し、得意技に磨きをかけるという形で、その危機を乗り越え、復活を遂げたのではないだろうか。

講演で高橋九段も語っていたが、これまで高橋九段の世代を追い落とす立場にいた羽生名人を中心とした最強世代の棋士の中にも、一時の勢いがなくなった棋士も出始めている。1969年から71年生まれの羽生世代はもうすぐ40歳。
今期のA級は、これから中年クライシスを迎える最強世代と、それを乗り越えた高橋九段の対決でもある。高橋九段は、今年のA級での目標との聴衆からの質問に、「最終戦に組まれている同世代のライバル谷川九段と最高の状態で対戦すること」と語っていた。それは、最終戦で名人挑戦権を賭けて戦いたいということだろう。さて、2010年3月に迎えるA級順位戦の最終戦をどのような状態で迎えることになるのか、これからは高橋道雄九段の戦いぶりにも注目していきたい。

リンク:高橋道雄九段の講演会で考えたこと(2)-キャリアアップの秘訣

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