『双調平家物語』は橋本治が語る日本古代史論だと思う
半年くらい前に橋本治の『日本の女帝の物語』を読んだことを書いた(2009年8月25日:「著者橋本治が『双調平家物語』のダイジェストでスピンオフと語る『日本の女帝の物語』(集英社新書)を読み終わる」)。
そこで、私は『日本の女帝の物語』のあとがきに相当する「おわりに」から著者橋本治の書いた
「私にしてみれば、日本の古代というのは、「女帝の時代」があり、「摂関政治の后の時代」となり、「男の欲望全開の院政の時代」となって、そして「争乱の時代」が訪れるという、三段あるいは四段構えになっているのですが、「平家の壇の浦で滅亡するまでの平家の物語」ということになると、このすべてが一まとめになって、ひたすら「長い長い物語」にしかなりません。それで、こういう『日本の女帝の物語』を書いたのです。」(『日本の女帝の物語』214~215ページ)
日本の女帝の物語―あまりにも現代的な古代の六人の女帝達 (集英社新書 506B)
この『日本の女帝の物語』を読み終わった時から、いずれは本家である『双調平家物語』を読まなくてはいけないと思っていたが、なにせ単行本でも15冊に及ぶ大作。版元の中央公論新社が2009年春から文庫化を始めたところで、読み始めるタイミングを図っていたが、結局、昨年の10月下旬ぐらいから読み始めた(結局、文庫は全16冊になるようである)。
読み出すと、面白い。文庫は「序の巻」から始まり、「飛鳥の巻」「近江の巻」「奈良の巻」「女帝の巻」「院の巻」「保元の巻」「平治の巻」「平家の巻」まで10冊が現在文庫化されている。
「序の巻」は、日本が範とした中国の漢や唐の時代が語られる。漢を簒奪した新の王莽、唐の則天武后、安史の乱の安禄山、史思明なども登場する。
「飛鳥の巻」から、日本に舞台を移し、蘇我氏、大化の改新、斉明女帝、天智帝、壬申の乱、天武帝、持統女帝と続く。「奈良の巻」では、聖武帝に光明子が嫁ぎ、藤原氏の台頭が本格化する。そして、天武帝の血統を皇位に就けるため、つなぎの役目で元明、元正という女帝が登場し、最後には称徳帝と光明子の娘阿倍内親王が皇太子となり、孝謙女帝さらに重祚して称徳天皇となった。
「女帝の巻」は、この孝謙・称徳女帝の時代を詳しく語り、その後の平安京遷都後平安時代前期を足早に語る。「女帝の巻」の最後は、いきなり藤原道長の栄華へ飛び、道長が娘4人を天皇に嫁がせたことを語る。しかし、藤原氏の娘たちからは、何故か男子が生まれず、藤原氏が外戚として権力を振るう時代が終り、藤原氏を外戚としない後三条帝、白河帝と続き、白河帝が堀河帝の譲位して院政が始まる。院政が始まるまでの5冊が、いわば『双調平家物語』の第一部である。
院政以後の「院の巻」からが第二部。白河院、鳥羽院、後白河院と続く院政の時代に、摂関家が衰退し、武士が台頭する。
この三人の院政の時代が、「院の巻」「保元の巻」「平治の巻」と続く。歴史の教科書では、院政も、保元の乱、平治の乱も1ページほどで語られてしまうが、多くの人びとの思惑が絡み合い、時代が変わっていったことが語られる。
現在、文庫の第10巻まで刊行されていて、昨日、読み終わったところだ。第10巻で「平治の巻」が終わり、「平家の巻」が始まった。
「平家の巻」からが、平家の栄華と衰退の物語が始まる。「平家の巻」「治承の巻」「源氏の巻」「落日の巻」「灌頂の巻」が、これから刊行される第11巻から第16巻で語られる。
私は歴史が好きで古代史を中心に多くの新書や小説を読んできたが、これまでの『双調平家物語』文庫10冊を読んで、目から鱗が落ちる思いを何回もした。
著者橋本治の日本古代史の見方は、それだけ斬新だが、でも説得力がある。これから、毎月刊行される残る6冊を読み進めるとともに、『双調平家物語』執筆時に、文芸誌『群像』に連載されたものをまとめた『権力の日本人』『院政の日本人』も併せて読み進めていこうと思う。
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