岩波少年文庫<ランサム・サーガ1>『ツバメ号とアマゾン号』を読み終って考えたこと
岩波少年文庫から<ランサム・サーガ>として新たに復刊されたアーサー・ランサム全集の第1巻『ツバメ号とアマゾン号』上下巻を読み終わった。
ツバメ号とアマゾン号(上) (岩波少年文庫 ランサム・サーガ)
ツバメ号とアマゾン号(下) (岩波少年文庫 ランサム・サーガ)
すでに、書いた通り、以前の版では岩田欣三・神宮輝夫の共訳だったものが、神宮輝夫の単独訳となり、訳語も見直しがされている。
ヨットを風上に向けてジグザグに操船することについての訳語が「間切る」から「タック」「タッキング」に変わっていたのは既に書いたが、旧訳では印象に残る言葉だった「屋形船」が「ハウスボート」に変わっている。最初の訳出から50年余という時間の経過によるものと考えるべきものなのだろう。
しかし、訳語が多少変わったからといって、子どもの頃、ハードカバーの重たい本を1章ずつ読み進めていった時の、わくわく、ドキドキした感じが変わるわけではない。
覚えていたのは、ツバメ号に乗るジョン、スーザン、ティティ、ロジャというウォーカー家の兄弟とアマゾン号に乗りウォーカー兄弟の好敵手となるナンシィとペギィのブラケット姉妹の存在ぐらいで、話のあらすじはほとんど忘れていた。
特に、上巻の終わりから下巻の最初にかけてのツバメ号とアマゾン号のどちらが旗艦になるかを巡っての戦い、駆け引きの場面は、冒険活劇として、いまでも十分楽しめた。
私自身は、30代半ばで北陸・富山に転勤になり、5年ほど過ごした。時代はまだバブルの余韻が残り、アウトドアブーム。各地に車で乗りつけるオートキャンプ場の整備も進んでいた。子どもも小さかったこともあり、テントに寝袋などキャンプ道具一式を買い込み、バーベキューの道具をもって、海辺や山あいのキャンプ場によく出かけたものだった。思えば、子どもの頃、読み憧れたアーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』の世界の一端でもいいから追体験したいということだったのかもしれない。
『ツバメ号とアマゾン号』の下巻の最後に、ヤマネコ島のキャンプでウォーカー兄弟とブラケット姉妹が夜あらしに見舞われる場面が描かれるが、能登半島の中ほどにある能登島のキャンプ場で真夜中に台風に見舞われたことや、岐阜の林間キャンプ場で夜通し雨に降られたことを思い出した。
この岩波少年文庫でのアーサー・ランサム全集全12巻の<ランサム・サーガ>としての新訳復刊は、岩波少年文庫60周年のキャンペーンの目玉企画だろう。これから子どもたちの夏休みが始まるという7月の半ばに第1作『ツバメ号とアマゾン号』の発売をあわせてきたのも、まさにこの作品が子どもたちが夏休みを思う存分楽しむ物語だからであろう。
岩波少年文庫という小中学生にとって読みやすい形で再提供されたことで、多くの子どもたちが手にとって、アーサー・ランサムの世界のすばらしさを経験してくれればと思う。
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