『将棋世界』2010年8月号での郷田真隆九段の竜王戦決勝トーナメント進出者コメントを読んで
第23期竜王戦七番勝負での渡辺明竜王への挑戦者を決める決勝トーナメントの出場者が出揃い、将棋連盟のホームページ、読売新聞の竜王戦中継サイトにもトーナメント表が掲示された。『将棋世界』8月号には、恒例になっている挑戦を受けるタイトルホルダー渡辺竜王の「展望と抱負」、各出場者のコメントが掲載された。
私が注目するのは、応援している郷田真隆九段(1組5位)のコメントである。2年前の第21期竜王戦に1組3位で出場した時には、「出場する以上、挑戦者を目指すのは当然」といったコメントが載せられていた記憶がある。(その時は、郷田九段は準決勝で木村一基八段に敗れ、挑戦者には1組5位から勝ち上がった羽生善治名人がなり、七番勝負では羽生名人が3連勝後4連敗という歴史に残る死闘を繰り広げた)
今回も、郷田九段のコメントには「挑戦者を目指す」と書かれているのだろうと思って、ページを開いてみると、予想とは全く異なるものだった。
「今期のランキング戦は5位決定戦の3局を指させていただきました。全局で敗勢の瞬間があり、非常に苦しい将棋ばかりでした。
(中略)鈴木戦〔ランキング戦1組5位決定トーナメント1回戦〕は最後まで負けでしたし、高橋戦〔同準決勝〕はポカに助けられました。佐藤戦〔同決勝〕も、佐藤さんが受け間違えられての辛勝でした。とにかく勝ち運があったとしかいいようがありません。
(中略)決勝トーナメントでの目標などもありません。
今期は不戦敗をしてしまったにもかかわらず、5位決定戦を指させていただきました。竜王戦を楽しみにされているファンの方にいい棋譜をお見せできるよう全力を尽くすだけです。とにかく、与えられたことを一生懸命やる。それだけです。」(『将棋世界』2010年8月号172ページ)
ランキング戦1組1回戦の森内九段戦(1月21日)に、寝坊して遅刻不戦敗という、タイトル獲得3期のA級棋士というトップ棋士にはあるまじき前代未聞の不祥事を起こしたこともあり、神妙なコメントである。
思えば、将棋連盟や主催社・読売新聞社の判断次第では、「今期の竜王戦出場停止」といったもっと厳しい処分もあり得たのだろうし、郷田九段の立場からすれば、そう言われても従わざるを得ない立場だっただろう。
改めて、当時の事情について書かれた『将棋世界』2010年4月号に掲載された読売新聞社西條耕一記者の不戦敗についての報告記事を読むと
「1組5位決定戦への出場についても議論があった。ただ、「ランキング戦が1敗しても本戦の出場権がまだ残っているのが1組の権利。多くの読者が郷田九段の対局を見たいと思っており、決定戦まで出場停止にする必要はない」とした読売側の意見を尊重し、出場を認めた」(『将棋世界』2010年4月号192ページ)
1組5位決定戦出場停止となれば、5位決定戦1回戦も不戦敗扱いとなり、「5位決定戦1回戦敗者4名が2組への降格」というルールから、即2組降格ということになる。西條記者の記事を読む限り、連盟側からは出場停止の可能性も含めた議論が出され、読売側がそれを押しとどめたように読める。郷田九段は、彼の対局を見たいと思う読者(ファン)の存在によって、救われたことになる。
(一方、郷田九段が、出場停止で即2組降級となれば、郷田九段が5位決定戦1回戦で対戦する相手(今回は鈴木八段)が、不戦勝で降級を免れることとなり、他の1回戦戦敗退棋士との不公平感も問題になったかもしれない)
こういった背景を考えると、今回の郷田九段のコメントが神妙にならざるを得ないのも理解できる。5位決定戦に出場できただけでも、感謝すべきことであり、結果的にそこで3戦勝ち抜いて、決勝トーナメントに出場できたことは、望外の僥倖ということなのだろう。
「決勝トーナメントでの目標はない、竜王戦を楽しみしているファンにいい棋譜を見せられるよう全力を尽くす」ということ以外を口にできる立場ではないのだ。
西條記者は不戦敗の報告記事を次のように締めくくっている。
「郷田は当分の間つらい思いをするだろうが、早く精神的に立ち直り、本来の格調高い将棋をファンにみせてほしい」(『将棋世界』2010年4月号192ページ)
「とにかく、与えられたことを一生懸命やる。それだけです。」という郷田九段の思いに、勝利の女神が微笑んでくれることを期待して、これからの決勝トーナメントを応援していきたい。
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コメント
不戦敗のニュースには心配しました。読売の判断が正しかったことを成績で証明してほしいですね。
投稿: 郷田九段を応援しています | 2010年7月 4日 (日) 20時13分