中公文庫版『双調平家物語』(橋本治著)ついに完結
今月(2010年7月)の中公文庫の新刊の1冊として、文庫版『双調平家物語』の最終16巻(落日の巻(承前)・灌頂の巻)が刊行された。
2009年4月に文庫化が始まり、毎月1冊ずつで16ヵ月。
文庫の底本となる単行本の方は、1998年10月に出版が始まり2007年10月に最終巻15巻(源氏の巻(承前)・落日の巻・灌頂の巻)で終了するまで10年を要した大作である。
(単行本の最終15巻が500ページを超える大著となったため、文庫版では単行本の最終巻を文庫版15巻と16巻に分冊されている)
著者橋本治が文庫版第16巻の巻末に書いた「文庫版のあとがき」によれば、著者が平家物語の執筆を決めたのは、1998年10月の単行本『双調平家物語』第1巻刊行から遡ること7年。その前作の大著『窯変源氏物語』の第1巻が刊行された1991年5月とのこと。版元である旧中央公論社の嶋中社長から、平家物語を手掛ける意志を問われ、即断したと書いている。その答えに、社長は「『源氏』と『平家』の両方を出すのは夢だった」と喜んだという。しかし、その嶋中社長は癌に倒れ、1998年10月の双調平家物語』第1巻刊行を見ることなく亡くなったとのことで、「文庫版のあとがき」はこのことに対しての著者のおわびから始まる。
中国から書き起こし、平清盛の物語の前段として、藤原氏の物語を書き、さらに遡れば蘇我氏の行き着くとして、自らの疑問の謎解きのため日中を股にかけ、さらに日本の古代から中世まで、書き続けたエネルギーにはただただ脱帽である。
以前も書いたように、もうこれは平家物語の枠を遙かに超えていて、橋本治編日本古代史論である。
私がこれまで読んで15巻を通して感じるのは、著者は日本史を大きく変えた存在として何人かの天皇・上皇をクローズアップしていると思う。
まずは、天武・持統系の皇子に皇統を継がせようとした退位後も隠然たる力を持ちつつ続けた持統天皇、そして天武・持統系の皇統のアンカーとなる孝謙・称徳女帝、藤原氏の作り上げた権力構造を棚上げにする形で院政を開始し、権力を奪回した白河天皇(上皇)、平家の隆盛と没落の背後に常に存在した後白河上皇である。
著者は「文庫版のあとがき」の中で
「私がこの『双調平家物語』を書きながら感じた疑問の数々は『権力の日本人』(講談社)、『院政の日本人』(同上)にまとめました(以下略)」
と書いている。
橋本治編日本古代史論は、『双調平家物語』全巻と『権力の日本人』・『院政の日本人』を読破して初めて、全体像が理解できるということなのだろう。
権力の日本人 双調平家物語 I (双調平家物語ノート (1))
まずは、文庫版『双調平家物語』16巻を早々に読み終え、読みかけの『権力の日本人』・『院政の日本人』の読破を目ざしたい。
<関連記事>
2010年2月12日:『双調平家物語』は橋本治が語る日本古代史論だと思う
2010年8月 4日:橋本治著・文庫版『双調平家物語』全16巻をとうとう読み終わる
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