小惑星イトカワの探査機「はやぶさ」の軌跡を語った幻冬舎新書『はやぶさ』を読む(2)
前回は、幻冬舎新書『はやぶさ』(吉田武著)の内容のうち、宇宙科学研究所(略称=宇宙研、ISAS)を中心としたロケット開発小史を語ったところで、力尽きてしまったが、本来の話の中心は、その宇宙研が進めたきた探査機「はやぶさ」を小惑星イトカワへ送り、イトカワのサンプルを採取して地球に帰還するというプロジェクトの意義である。
2003年の「はやぶさ」打ち上げに成功した直後、プロジェクトマネジャーである宇宙研の川口淳一郎教授は、加点法による「はやぶさ採点簿」を公開したという。
電気推進エンジンの稼働開始(3台同時は世界初):50点
電気推進エンジンの1000時間稼働:100点
地球スウィングバイ(電気推進によるものは世界初):150点
自律航法に成功して「イトカワ」とのランデブー:200点
「イトカワ」の科学観測:250点
「イトカワ」にタッチダウンしてサンプルを採取:300点
カプセルが地球に帰還、大気圏に再突入して回収:400点
「イトカワ」のサンプル入手:500点
(吉田武著『はやぶさ』45ページ)
ここでの採点項目には、ハードウェアとしての探査機「はやぶさ」の性能についての項目とその「はやぶさ」を使って小惑星「イトカワ」についての科学的観察の成果の2種類が含まれている。
プロジェクトが、機械と観察という2つの別体系の目標をあわせもつところが、工学系研究者と理学系研究者がペアで研究・開発を進める「宇宙研」ならではのものだろう。
そして、この採点簿は500点満点ではなく100点満点の評価という。電気推進エンジン1000時間稼働を達成できれば、それだけでもプロジェクトは成功といえるということで、さらに加えて、いくつもの難易度の高い目標を複数抱えるプロジェクトであるということだ。
「はやぶさ」は太陽電池のパネルを持ち、太陽の光をエネルギー源にして、4機(1機は予備)イオンエンジンで推力を得る。そのエンジンがどれだけ耐久性があるかが採点簿の1番目、2番目である。
しかし、太陽電池パネルで得られるエネルギーはわずかで、少しでも推進力を得るために地球の引力を利用するのが3番目の「地球スウィングバイ」ということのようだ。地球というハンマー投げの選手に「はやぶさ」というハンマーを投げてもらうというイメージを持ったのだが、正しい理解なのかどうか自信はない。
その後は、小惑星イトカワまでたどり着き、イトカワの観察を行い、イトカワに着陸してサンプル採取、地球に帰還ということになる。
サンプル採取については、サンプラー・ホーンという筒から弾丸を発射し、舞い上がった粉塵を採取するという本来の意図した方法は成功しなかったようだが、それでもはやぶさ本体は2005年11月20日にいったんイトカワに着陸したことは確実で、その着陸の際に舞い上がり、吸い込んだかもしれないイトカワの微粒子がカプセルの中に存在するかどうかということになる。
結果としては、この課題・目標のほとんどをクリアしたことになる。カプセルの中に存在したという0.01mm微粒子2個がイトカワ由来のものであれば、100点満点の500点になるのだが、どうだろうか。
なお、科学的な観測の成果としては、2006年6月2日号に米国の科学雑誌サイエンスに宇宙研のはやぶさチームで書いた小惑星イトカワについての7本の論文が同時掲載され、その号は「はやぶさ特集号」となったという。
さらに、持ち帰った2個の微粒子が、イトカワ由来のもので、更なる研究成果が認められることをいのるばかりだ。
「はやぶさ」プロジェクトに興味のある方は、一読する価値のある本だと思う。
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