池上彰著『<わかりやすさ>の勉強法』(講談社現代新書)から、「わかりやすい説明」と「自己流の編集」について
ここ数日、小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクト関連の本を夢中になって読む前に、池上彰著『<わかりやすさ>の勉強法』(講談社現代新書)を読んだ。
池上彰は、NHKの週刊こどもニュースの初代おとうさん役として名が売れ、今や、子どもだけでなく、大人に対しても、政治・経済・国際問題等の難しいニュースを最もわかりやすく説明してくれる解説者と言えるだろう。
インターネットから何かと情報を集めてくる長女は、「このあいだの参議院選挙の解説番組では、テレビ東京の池上さんがおもしろい、わかりやすいって評判だよ」と語っていた。
インターネット検索でいろいろと調べて見ると、昨年夏の衆議院選挙の際の関東地区でのテレビ東京の視聴率は2.4%で 在京6局中ダントツの最下位だったが、今回はNHK18.8%、日本テレビ9.7%に次ぎテレビ東京が9.3%でなんと3位。以下TBS9.2%、テレビ朝日9.1%、フジテレビ8.2%の順だったそうだ。
わかりやすい解説に加え、今回は、政党の幹部や当選した議員への、歯に衣着せぬ本音での鋭い質問(ツッコミ)が話題になっていた。
その長女や妻が、改めて政治や経済を勉強するのに池上本を読むと言い始め、我が家は今ちょっとした池上彰ブームになっている。
ブームの中で買った1冊が講談社現代新書の2010年6月の新刊『<わかりやすさ>の勉強法』。
勉強法や、情報収集と情報の整理等で読んでいろいろと得るところがあったが、特に印象に残った点を二つ紹介しておきたい。
まず、まえがきにあたる「はじめに」のところで、どんなときに人は「ああ、そうだったんだ!」と思うかという「わかりやすい説明」を説明した部分である。
「自分の中に以前から存在していた断片的な知識がひとつにつながったとき。
断片的な知識が、あるルールのもとにきれいにならべられたとき。
断片的な知識が、いくつかのグループに分けられたとき。
こんなときに、「そうか、わかったぞ!」と叫びたくなるのではないでしょうか。」
(『<わかりやすさ>の勉強法』3ページ)
日本は中学卒業までの9年間は義務教育。多くの人は高校も卒業している。池上キャスターに解説してもらうテーマは、主に、政治・経済・国際問題なので、聞き手の側も小学校の社会科、中学校の公民(今も公民と呼ばれているかはわからないが)、地理、歴史、高校でも現代社会や政治・経済、地理、人によってはさらに日本史・世界史など学んでいるはずなのだ。それぞれに、得意不得意はあったにせよ、断片的な知識は皆持っている。
それを、思い出してもらい、うまくグルーピングしたり、つなげてみせるというのが、池上マジックのキモということなのだろう。
もうひとつは「自己流の編集」の説明の部分だ。
「多様な事実の中から自分なりにいくつかの事実を選んできて自分なりに並べる。それが、「自己流の編集」だと思います。
雑多な事実の中から何を選ぶか、選んだ事実をどう並べるか、選ぶ力と並べる力、その二つが言ってみれば「編集力」なのです。(中略)
どのように並べるかというところで、また編集力が問われます。(中略)自分なりの並べ方をする。そこから「どんな説明をしようか」と自分なりの論理を考えていくのです。(中略)
出来事を自己流に解釈して並べる力、あるいは「解釈した結果、こう伝える」と伝わるかたちに並べ直す力、それが編集力の第二段階です。」
(『<わかりやすさ>の勉強法』3ページ)
以前、著者がNHKに記者として入社し、各地で記者経験を積んだ後、首都圏ニュース845のキャスターとなり、そこから週刊こどもニュースのキャスター(お父さん役)へとさらに転身し、NHKを退社するまでを綴った本を読んだことがあるが、さらにその後、民放で自身のレギュラー番組や他の番組にゲスト出演する中で、見聞を広め、そこで新しく得たものが、新しい本には反映されているように思う。
著者は「あとがき」にあたる巻末の「勉強って何だろうー「おわりに」に代えて」で次のように語る。
「勉強するということは、知識欲を満たす純粋な楽しさと同時に、自分が成長しているという実感を与えてくれます。それは年齢に関係ありません。50歳でも、60になっても、70になっても、前の日よりも自分が成長していることが実感できる喜び、それが実は、勉強ではないかと、最近私は思っています。」
(『<わかりやすさ>の勉強法』219ページ)
「勉強法」という点で学ぶべき点が多いのはもちろんだが、行間から池上彰の人となりがにじみ出る本だと思う。
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