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2010年8月18日 (水)

山根一眞著『小惑星探査機 はやぶさの大冒険』(マガジンハウス刊)、興味をひく出版秘話

幻冬舎新書の吉田武著『はやぶさ』を読んで、遅ればせながらのにわか「はやぶさ」ファンとなった。

はやぶさ―不死身の探査機と宇宙研の物語 (幻冬舎新書)
はやぶさ―不死身の探査機と宇宙研の物語 (幻冬舎新書)

しかし、幻冬舎新書は2006年11月刊であり、扱われているのは小惑星イトカワとのランデブーに成功し、当初の予定とは違ったもののイトカワに着陸、着陸したものの、その直後の2005年12月9日に音信不通となったところで、本文がいったん終っている。
イトカワとのランデブー中に撮影からイトカワの写真からも多くの発見があり、科学雑誌サイエンスへの発表で世界から絶賛されたことだけでも語る価値はあるという締めくくりだったと思われる。
その後、再び「はやぶさ」の通信が2006年1月23日に回復。出版準備の最終段階で、エピローグとして、宇宙研のメンバーの必死の努力で満身創痍の「はやぶさ」を何とか復活させ、地球に戻る航路をセット、2007年だった帰還予定が2010年6月と決まったところで、終っている。
しかし、地球に戻る旅を始めた「はやぶさ」は、その後も電子エンジン(イオンエンジン)がすべて止まるという危機に見舞われているのだ。

地球への帰り道での危機脱出の顛末も詳しく知りたいと思い、他の「はやぶさ」関連本を改めて書店で探してみた。世の中でこれだけ騒がれているので、関連する本が沢山出されているだろうと思っていたが、意外に少ない。
写真やイラストがメインのビジュアル中心の図鑑・雑誌的な『ニュートン』の別冊のようなものは何冊かあるが、読み物中心のものは、山根一眞著『小惑星探査機 はやぶさの大冒険』(マガジンハウス刊)ぐらいだった。

小惑星探査機 はやぶさの大冒険
小惑星探査機 はやぶさの大冒険

はやぶさ関連本が少ない理由は『小惑星探査機 はやぶさの大冒険』の「あとがき」に山根一眞自身が書いていた。

私は、1990年代初頭に、純国産のH-Ⅱロケット開発者で「ロケットの父」と呼ばれるようになった五代富文さん(のちにNASDA副理事長)の薫陶を受けて、宇宙取材に力をいれるようになった、。「はやぶさ」については宇宙科学研究所教授の的川泰宣さん(現・名誉教授)との出会いがきっかけで、2003年の打ち上げ前からチームの技術者や科学者との対談を始めていた。これほど見事で誇り高い仕事はないと直観したからだった。もっとも、インターネット上でも「はやぶさ」に関する書き込みは、長いこと技術に明るい人たちのものに限られていた。それだけに難解な宇宙技術のかたまりである「はやぶさ」のことを一般向けの本として出版する理解は得られず、私自身、半ば諦めていた。だが、記録だけはとり続けなくてはならないという思いで、宇宙科学研究所への取材は続けていた。(『小惑星探査機 はやぶさの大冒険』297~298ページ)

いまでこそ、多くの人が関心を持つ「はやぶさ」プロジェクトだが、それは数々の苦難を乗り越えて、小惑星イトカワまで往復60億キロを7年かけて、帰ってきたというかつてヒットしたSFアニメ『宇宙戦艦ヤマト』さながらの物語が、人の心を惹きつけるからだろう。これが、地球への帰り道、イオンエンジンの不調が回復せず、そのまま宇宙の放浪者となっていたら、いくらそれまでの学術的業績が素晴らしくとも、ここまで騒がれることはなかっただろう。

著者は、今年(2010年)1月に宇宙研での取材の帰り、マガジンハウスのなじみの編集者から電話を受ける。「はやぶさ」とは関係のない本の話である。

「今、宇宙研の帰りなので・・・・・・」と答えたところ、「それ、何ですか?」と聞かれたので、私は「はやぶさ」のすごさをまくしたてた。彼は「はやぶさ」のことは何も知らなかったが、「すぐ本にしましょう!中学生でもわかるやさしい内容で書いて下さい!」といきなりいわれた。(『小惑星探査機 はやぶさの大冒険』298ページ)

一冊の本が世に出るまでにもドラマがあるものだ。『小惑星探査機 はやぶさの大冒険』は、著者山根一眞のこのプロジェクトは、多くの人に伝えるべき事だというジャーナリストとしての熱意と地道な取材が最後になって結実した本である。
引用した「あとがき」にもあるように、本書には2003年の打ち上げから始まって以来、「はやぶさ」が学問上の業績を残したり、危機に遭遇したりする都度、宇宙研から発表されたプレスリリースや、またそれぞれ事案にいて宇宙研で担当する学者や技術者対する著者自身のインタビューを、著者自身も「はやぶさ」の一ファンとして、「わくわく、はらはら、やきもき」した思いが、ぎっしりと詰め込まれている。

「はやぶさ」プロジェクトの7年間の貴重な記録として、のちのちまで残っていく本になるのではないかと思う。

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