切手で学んだ日本の美術、東京の美術館を巡って
最近、休日に美術館に絵画を見に行くことが多くなった。都内には、国立博物館や東京国立近代美術館など国が運営するものから、企業グループや個人の蒐集品を中心に作られた大小さまざまに美術館があり、いつもどこかで展覧会が行われている。休日、家にいてばかりでは運動不足にもなるので、趣味と実益を兼ねて足を運んでいる。
最近、見たもので、一番見応えがあったのが、竹橋にある東京国立近代美術館の「上村松園展」だ。明治・大正・昭和を生き抜いた日本画の女流画家上村松園の作品を初期のものから絶筆となった作品まで集めてており、圧倒される内容だった。
企業グループや個人の蒐集品を中心とした美術館でこれまでの見た中で、比較的レベルが高いと思ったのは、日本画では山種美術館、洋画ではブリジストン美術館である。
山種美術館は、旧山種証券(現SMBCフレンド証券の前身の1社)や米の卸や倉庫業を営む(株)ヤマタネ(旧山種産業)創業者山崎種二が蒐集した作品を展示している。山崎種二は、日本画の大家横山大観に戦後の一時期自分の別荘をアトリエとして提供するなど親交があり、単なる美術品の蒐集家というよりは、日本画家たちのパトロン的存在だったようだ。2009年10月に、新しい美術館がJR恵比寿駅から坂を上がった広尾の丘の上にオープンしている。
ブリジストン美術館は、東京駅八重洲口から八重洲通りを5分ほど歩いたブリヂストンビルの中にある。こちらはブリジストンの創業者石橋正二郎の西洋美術のコレクションが元になって作られたもので、青木繁作品や藤島武二などの明治以降の日本の洋画家の作品蒐集から始まり、フランスの印象派の作品を多く集めている。
いくつかの美術館を巡ってありがたかったのは、子どもの頃に夢中になった切手集めのおかげで、日本画であれ洋画であれ、日本の著名な画家と代表作品は切手を通じて見たことあったことである。
私たちが小学生だった昭和40年代は、テレビゲームなどないので、大半の男子は将棋を指していたし、切手集めも流行っていた。少年マガジンやサンデーなどの漫画誌には切手商による主要な記念切手の売買価格表が必ず掲載されていた。今思えば、新聞の株価欄そっくりであり、子ども心にも切手は長くもっていれば値上がりするという思いが自然と刷り込まれていた。記念切手の発売日には、小学生もなけなしの小遣いを手に、郵便局の前に並んでいたものだ。お互い集めた切手を見せ合って、交換するのも遊びのうちであり、新しい記念切手の発売は切手を額面で仕入れられる貴重な機会だった。
私自身が、初めて郵便局に並んで買った切手は1969年5月26日の「東名高速道路開通記念」。
翌6月には11日に「東京国立近代美術館開館記念」、12日に「原子力船進水記念」、25日に「日本海ケーブル開通記念」と続けて記念切手が発売された。高度成長時代ど真ん中という頃である。(記念切手まで発売され、その完成が祝われた原子力船むつがその後流浪の旅を強いられることになるのは、なんとも皮肉なことだが)
切手発売の元締めである当時の郵政省は、東名高速開通のような国として記念すべきイベントを対象に記念切手を発売するとともに、毎年定例で4月に切手集めを奨励する意味で過、切手趣味週間と題して日本の美人画を題材にした大型の記念切手を発売し、10月に国際文通週間と題して国際郵便用の額面で、東海道五十三次や富嶽三十六景など浮世絵をテーマに切手を発売していた。趣味週間と文通週間は、デザインも美しく、過去発売されているものの多くが値上がりしているということで人気があった。
他にも、毎年開催される国民体育大会の記念切手、不定期であるが、国立公園シリーズ、国定公園シリーズなど全国の景勝地を紹介するもの、国宝シリーズなどがあった。
切手収集にはカタログが不可欠だが、カラー版の一般向けのカタログとは別に、白黒だが、各切手に関するデータが詳しく開設されている日本切手専門カタログを読んで、日本の文化・歴史・地理などに触れることになった。
何かに新しく接する時、それが全く未知のものであるか、小さなことでも何かしら接点がるのとでは、より詳しく知ろうとする時のアプローチが全然違う。例えば絵画では、切手を通じてであれ、作者の名と作品になじみがあれば、それば一つの足場になる。
先に触れた上村松園であれば、1965年の切手趣味週間で「序の舞」が、1979年から83年までシリーズで出された近代美術シリーズの第6集で「母子」(1980年発行)が取り上げられている。
なるほど、切手のなるほどの作品は、その画家の作品の中でも代表作といえるものであることが、わかる。
切手という小さな窓から、多少なりとも日本の社会・文化を学べたことに、感謝しなくてはと思う。
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