『将棋世界』の電子書籍化は、電子出版の新たな可能性を示しているのではないか
日本将棋連盟発行の月刊誌『将棋世界』を電子書籍化してApp Storeで2010年12月9日から販売を始めるとのことで、将棋連盟が会見を開いた。
ただ、単に紙の雑誌を電子化するだけではなく、タイトル戦の将棋の対局の内容を示す棋譜の図面上で手順の再現が可能で、講座や詰将棋の解答などでも駒動くという。
これは画期的なことだ(と思う)。パソコン好きの将棋ファンとしては、インターネットで、タイトル戦や順位戦の対局がリアルタイムで中継されるようになったことにも、技術の進歩を感じたが、駒が動く電子書籍の『将棋世界』にもさらに技術の進歩を感じる。
1局の将棋が終るまで100手前後、長手数の対局だと150手を超えるものもある。すでに終った対局を新聞や雑誌で伝える際は、特定の局面の図面が示され、その後の10手から20手ほどは、指し手のみが▲2六歩、△3四歩といった形で示される。
プロ棋士ならいざ知らず、多少将棋をかじった程度の私のようなファンには、ある局面から10手、20手を頭の中に将棋盤をイメージしながら読み進めるのは骨が折れることで、結局、解説を斜め読みし次の図面を見るというのが、いつもの『将棋世界』読み方だった。
上記の会見の記事には、棋譜図面をタッチすると一手ずつ盤面が変化する様子が、動画(YouTube)で示されている。これは本当に便利だ。記事では、将棋連盟の米長邦雄会長が「電子書籍は将棋のためにある」とコメントしたと伝えられている。
とりあえずは『将棋世界』からということだろうが、『将棋世界』で可能なら、プロ棋士が書いている将棋の戦法の解説書、自戦記、詰将棋の本などもこのような形で電子出版が可能ということでもある。
先日出版され、将棋ファンの間では話題の『どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?』(梅田望夫著/中央公論新社)では、著者が棋士と将棋盤を交え、過去の対局につきインタビューする場面があるが、この駒が動く盤面図があれば、よりインタビューの内容が生々しく伝わることになるだろう。
電子書籍という媒体を利用することによって、将棋という競技、ゲームの伝え方も、教え方も大きく変わるような気がする。
これまで、私自身は電子辞書より紙媒体の国語辞典や英和辞典と思っていたし、単なる電子出版にもあまり魅力を感じたことはなかった。単に電子化しただけでは、「モノ」として存在する書籍・書物の一覧性に勝るとは思えなかったからだ。
しかし、電子版『将棋世界』だけは別だ。電子版には紙媒体では実現されなかった付加価値がある。この『将棋世界』電子書籍化は電子出版の新しい形、可能性を示しているのではないかと思う。
まだ、アップル社のiPadは持っていないが、この電子版『将棋世界』を読むためにiPadを買いたいなと思っている。
| 固定リンク | 0
« 第60回NHK杯将棋トーナメント3回戦第1局、郷田真隆九段が豊島将之六段を破りベスト8進出決める | トップページ | 将棋第69期A級順位戦6回戦第3局渡辺明竜王vs郷田真隆九段戦、郷田九段が勝って3勝3敗の五分に戻す »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 西野智彦著『ドキュメント通貨失政』(岩波書店、2022年)を読み終わる(2023.02.24)
- 三宅香帆著『それを読むたび思い出す』(青土社、2022年)を読み終わる (2023.02.18)
- 北条早雲(伊勢新九郎盛時)を描く『新九郎、奔る!』(ゆうきまさみ、小学館)(2021.05.22)
- 『戦乱と政変の室町時代』(渡邊大門編、柏書房)を読み終わる(2021.05.16)
- 小野不由美著『十二国記』シリーズ (新潮文庫版)を読み終わる(2015.03.01)
「IT」カテゴリの記事
- 「重要なニュース」というタイトルの詐欺メール(2021.06.14)
- SONYのウォークマン(WALKMAM)の自動選曲システム「おまかせチャンネル」がおもしろい(2011.10.16)
- 『将棋世界』の電子書籍化は、電子出版の新たな可能性を示しているのではないか(2010.12.09)
- 米国での新たな動きを紹介し、ネット社会の現在と未来を語るハヤカワ新書juiceの第1作『クラウドソーシング』(2009.06.23)
- 電子辞書と紙の辞書(2007.03.22)
「将棋」カテゴリの記事
- 第65期王将戦七番勝負第1局、郷田真隆王将が最強の挑戦者羽生善治名人に完勝(2016.01.11)
- 第64期王将戦就位式、祝・郷田真隆王将!(2015.05.19)
- 郷田真隆九段、44歳で5回目のタイトル王将を獲得(2015.03.29)
- 郷田真隆九段、2つの三度目の正直で王将挑戦へ(2014.12.26)
- 第27期竜王戦、郷田真隆九段、今年もランキング戦1組4位で決勝トーナメント進出(2014.05.31)
コメント