第36期棋王戦挑戦者決定二番勝負は、敗者復活組の渡辺明竜王が広瀬章人王位との20代対決に2連勝し、久保利明棋王への挑戦を決める
2010年年末、2011年年始にかけて久保利明棋王への挑戦権を争う二番勝負が行われた。棋王戦の挑戦者決定は、トーナメントで行われ、ベスト4以上は2敗失格制となる。
本戦の準決勝で敗れた棋士どうしが敗者復活戦の準決勝を戦い、その勝者が本戦決勝の敗者と戦って敗者復活戦の勝ち抜き者を決める。本戦の勝ち抜き者と敗者復活戦の勝ち抜き者で二番勝負を戦う。
本戦勝ち抜き者は(無敗なので)2戦のうち1勝すれば挑戦権獲得となり、敗者復活戦勝ち抜き者は(すでに1敗しているので)、2連勝が挑戦の条件となる。
今回の本戦ベスト4以上の戦いは、本戦準決勝が、窪田義行六段(勝)vs糸谷哲郎五段(負)、広瀬章人王位(勝)vs渡辺明竜王(負)、本戦決勝が広瀬王位(勝)vs窪田六段(勝)となり、広瀬王位が本戦を無敗で勝ち抜いた。
一方、敗者復活戦準決勝が渡辺竜王(勝)vs糸谷五段(負)、決勝が渡辺竜王(勝)vs窪田六段(負)となり、渡辺竜王が勝ち上がった。
挑戦者決定二番勝負は第1局が2010年12月27日に行われた。振り駒で先手は広瀬王位。四間飛車から穴熊に構える。一方、後手となった渡辺竜王は△8四歩と居飛車を宣言し、こちらも穴熊に囲い、「フリ穴」(振り飛車穴熊)と「イビ穴」(居飛車穴熊)の対決となった。先手広瀬の四間尾車穴熊に後手が居飛車穴熊で対抗する形は、王位戦の挑戦者決定戦の羽生vs広瀬戦、第51期王位戦七番勝負第1局の深浦vs広瀬戦でも戦われ、いずれも広瀬側が勝っている。広瀬王位にとっては、ここ一番で採用する得意戦法といえるだろう。
双方穴熊で守りが固いので、お互いに攻めのスピードの競争になる。飛車、角の大駒も含めた攻め駒で、玉を守る金、銀を剥がし、どちらが先に玉を穴熊からあぶり出し、トドメをさせるかという一手争いのきわどい勝負になりやすい。
広瀬王位は、羽生戦、深浦戦のように渡辺玉のあぶり出しを狙うが、攻め駒足りない。
渡辺竜王から角交換を行って手薄となった8筋に飛車が走り、△8八飛成と竜を作って、竜の横効きで穴熊の中の広瀬玉を狙う。さらに角が馬となって、竜・馬の二枚に加え、桂馬で急所を押さえる。
自玉は受けなしとなり、渡辺玉を詰ますには駒が足りないとなり、広瀬王位の投了となり、挑戦権の帰趨は年明けの第2局に持ち越しとなった。
第2局は2011年1月6日。将棋連盟としては、新年最初のビッグイベントである。第2局の勝者が挑戦者となる。今回も振り駒で、広瀬王位の先手。第1局を四間飛車穴熊で落とした広瀬王位の今回の戦法は中飛車。守りは穴熊にせず、高美濃。一方の渡辺竜王は再び居飛車穴熊。穴熊が固く、広瀬王位の攻撃が一歩及ばない。渡辺竜王は、あっという間に、駒を集結させて美濃囲いを崩し、広瀬王位の投了となった。
渡辺竜王にとって挑戦権獲得のためには2連勝しかないという状況の中で、自分より年齢が下のタイトルホルダーである広瀬王位に2連勝して、棋王挑戦権を手中にした。広瀬を降し、「羽生世代」を追いかける20代の若手世代の中で、自らが盟主であることを示してみせた形となった。
2年前、羽生世代・最強世代の佐藤康光棋王から初タイトルを奪取し、昨年、同じ佐藤康光九段を挑戦者に迎え、防衛を果たした「(羽生世代の)ちょっと下の世代」の久保利明二冠(棋王・王将)は、今回、「棋王」位については、自分より年下の「渡辺竜王を中心とした世代」の盟主、渡辺明竜王と挑戦者に迎えることになった。
一方、昨年、羽生善治王将から奪取した「王将」位については、渡辺竜王よりさらに下の世代のトップランナー豊島将之六段を挑戦者に迎えた。
久保は何回も羽生世代、特に羽生の厚い壁に跳ね返されながら、6回目のタイトル挑戦でようやく栄冠を手にした。そして、昨年は棋王位防衛と王将位奪取を果たし、「二冠」となった。同時に複数タイトルを保持した棋士は数えるほどであり、久保自身も将棋界の歴史に名を残したと言えるだろう。
しかし、ようやくつかんだ栄冠を、下の世代が容赦なく奪いに来た今期、タイトルを守り続けることができるのか、それとも深浦康市九段(前王位)のように、むざむざその地位を明け渡すことになるのか、また王将戦、棋王戦の2つのタイトル防衛戦を戦う一方、間バックしたA級では現在3勝3敗で、名人挑戦者の可能性も残す一方で、今後の成績次第でB級1組への再陥落もあり得る位置にいる。A級での今後の3戦も負けられない戦いである。久保利明二冠(棋王・王将)の真価が問われる3ヵ月が始まる。
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