吉村昭著『三陸海岸大津波』を読んで思う記録することの大切さ、天災は忘れた頃にやって来る
知人がTwitterで読んだと書いていた吉村昭の『三陸海岸大津波』という本が、ずっと気になってきたが、先週、職場の近くの書店で見つけたので、さっそく購入した。
吉村昭の作品はペリー来航時の主席通詞を勤め、その後、日本で初の本格的な英和辞典の編纂にあたった掘達之助という人物を主人公に描いた『黒船』という小説と、エッセイを読んだ程度なので、わずかな作品を読んだだけの感想だが、『黒船』を読む限り、事実を丹念に調べ、淡々と書き綴っていくその姿勢には共感するものがあった。尊敬する作家のひとりだ。
『三陸海岸大津波』は、その吉村昭が三陸海岸沿岸を丹念に取材して歩き、今から40年以上前の1970年に『海の壁-三陸沿岸大津波-』とのタイトルで中公新書としてから刊行され、その後1984年に中公文庫となり、さらに20年後の2004年に文春文庫にも入った。そして、今回の東日本大震災で再び書店の店頭に平積みされるようになった。
私は最初、この本を探す時、中公文庫の棚ばかり見ていて、文春文庫で再刊されていることにまったく気がつかなかった。
この本では、明治29年(1896年)と昭和8年(1933年)に三陸地方を襲った地震と津波の被害、さらに昭和35年(1960年)に発生した南米チリの地震に伴う津波の被害について語るととも、それ以前も含め、この地域がたびたび津波に襲われた歴史にも簡単に触れており、今回の大震災でも話題になった平安時代の貞観津波にも言及している。
読んでみると、明治29年、昭和8年の津波の被害の描写が、今回の大震災の被害とそっくりなことに驚く。
また、明治・昭和の津波も地震によるものであり、地震の前兆として、どちらもしばらく前から漁業が豊漁となったことと、井戸水が濁ったとの共通点があったことが指摘されている。
今回の震災前はどうだったのだろうかと気になってしまう。
また、津波のことを、当時は、地元の人たちが「ヨダ」と呼んでおそれていたことも、津波が意志をもった怪物のように思えて、興味深かった。
「天災は忘れた頃にやって来る」という言葉があるが、今回の震災は我々にその言葉を思い起こさせることになった。災害についてこのような記録が残されることは、将来に向け備えるためには、大切なことだと思った。
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