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2015年3月の記事

2015年3月29日 (日)

郷田真隆九段、44歳で5回目のタイトル王将を獲得

昨年(2014年)12月25日に行われた第64期王将戦挑戦者リーグのプレーオフで羽生善治名人に勝って、渡辺明王将への挑戦権を獲得した郷田真隆九段。

2015年の正月気分もまだ抜けない1月11日(日)静岡県掛川市で第64期王将戦七番勝負が開幕した。

挑戦者の郷田は1971年3月生まれの44歳。羽生善治名人、森内俊之九段とは同級生で奨励会同期。奨励会同期には年齢では1歳上の佐藤康光九段もいる。また、奨励会には遅れて入ったものの、その後プロ棋士となりタイトルを取った丸山忠久九段、藤井猛九段も同級生で彼ら同世代の集団を、将棋界では「最強世代」、「羽生世代」と呼んでいる。
郷田自身は、これまで、王位1期、棋聖2期、棋王1期とタイトル4期を獲得しているが、羽生が90期、佐藤が13期、森内が12期のタイトルを獲得し、羽生が19世名人を含む6つの永世位、佐藤が永世棋聖、森内が18世名人の永世称号まで獲得していることと比較されるとタイトル4期も見劣りしてしまう。なんとか1つでも多くのタイトルを獲得・防衛しその差を詰めていきたい。
また、40代になって10年ぶりに獲得したタイトル棋王を2年前、郷田から奪ったのは、渡辺である。郷田にしてみれば、その借りを返したいという思いも強いに違いない。

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(第7局終局後の郷田九段、毎日新聞HPより)

一方、現在、棋王・王将の2タイトルを有する渡辺は1984年生まれ。現在でも将棋界に君臨する羽生に勝ち越している数少ない棋士であり、前人未踏の竜王タイトル9連覇を果たし、棋界唯一人の「永世竜王」資格の保持者でもある。最強世代の後続の世代が、最強世代の厚い壁を越えあぐねる中、ただ一人、最強世代と互角以上に渡り合い実績を残している次世代のエースだ。
渡辺としては、羽生が現在、名人・王位・王座・棋聖の4タイトルを保有し、依然として将棋界のトップに君臨する中、現在の棋王・王将の2タイトル保持した上で、3つめのタイトルを羽生から奪い、少なくとも羽生と肩を並べたいところ。今回、王将戦の挑戦者は郷田だが、一方、同時期に行われる棋王戦五番勝負では羽生の挑戦を受ける。

年末のプレーオフで羽生に勝ち王将挑戦を決めたものの、11月、12月と郷田は不調で9戦して3勝6敗。6敗のうちにはA級順位戦での2敗も含まれ、A級は2勝4敗で降級圏内。年明けからのA級順位戦の3局と王将戦七番勝負を平行して戦わなければならない。

1月11日・12日に行われた静岡・掛川での第1局は先手の渡辺王将が「角換わり」を選択。途中、これまでプロ棋士の間では指されていない、コンピューターソフトが指したとされる新手を繰りだした。劣勢を意識した郷田の粘りも及ばず敗退。渡辺1勝。

1月22日・23日に島根・安来での第2局も「角換わり」に。この間、15日に行われたA級順位戦第7局で郷田は深浦九段と戦い苦しい将棋を逆転で勝利してA級残留に一歩前進している。王将戦では、先手郷田が有利に進めているいるように思われた中盤戦だったが、持ち時間が少なくなる中、郷田にミスが出て逆転負けを喫した。郷田にとっては勝っておきたかった一番だった。渡辺2勝。

1月29日・30日の第3局は栃木・大田原が戦場。先手の渡辺は矢倉を選択。郷田も矢倉は得意とするところで、堂々と受けて立ち、がっぷり四つの戦い。どちらも大きなミスはなかったように思われた内容だったが、「いつの間にか悪くなっていた」と渡辺がぼやく内容で郷田の勝利への執念がようやく結実。渡辺2勝、郷田1勝とひとつ返した。

1月に3局組まれた王将戦だが、2月からは渡辺がもつもう一つのタイトル棋王戦の五番勝負も始まるほか、2月6日、3月1日にA級順位戦の8回戦、9回戦の一斉対局が行われるため、2月は王将戦は1局、棋王戦が2局というスケジュールが組まれた。

棋王戦の第1局(2月11日)と第2局(21日)に挟まれた2月16・17日の王将戦第4局。郷田は2月6日のA級第8局で森内九段にも勝って4勝4敗と五分まで星を戻したが、今期A級順位8位の郷田は、今年の混戦のA級ではまだ残留は決まらない。それでも最終戦の阿久津八段戦に勝てば自力残留が決まるところまで挽回した。
一方の渡辺もA級では三浦八段に勝ち名人挑戦への可能性をつなぎ、続く棋王戦第1局は羽生を破って王将戦第4局に臨んだ。
第4局では後手の渡辺が今シリーズ初の振り飛車である四間飛車を採用。しかし、生粋居飛車党の郷田は振り飛車破りのスペシャリストでもある。途中、千日手の可能性がささやかれる場面もあったが、郷田が打開し、渡辺を押し切った。渡辺2勝、郷田2勝の五分に戻し、改めて3月12・13日の第5局からの三番勝負となった。

渡辺は2月21日の棋王戦第2局でも羽生に勝ち、棋王防衛に王手。3月1日のA級順位戦の最終局では、郷田は阿久津八段に勝ち5勝4敗のA級6位で残留確定。渡辺も挑戦を争う久保九段に勝ち6勝3敗で名人挑戦者を決める4者プレーオフに勝ち残った。3月8日の棋王戦第3局でも渡辺は羽生を降し、3連勝で棋王を防衛。しかし、10日に行われたA級順位戦のプレーオフでは最終局で勝った久保に負かされて名人挑戦の目は消えた。

残る将棋界の年度内のビッグイベントは王将戦のみ。残り3局は3月11日・12日の第5局から、毎週1局のハイペースでスケジュールが組まれている。

第5局の前日の3月11日、天気は全国的に大荒れ。北海道、東北、北陸地区は暴風雪。第5局対局場は佐渡島。通常、タイトル戦前日には対局者含む関係者は現地入りし、会場や駒盤の検分、前夜祭などに参加するが、この日は海も大荒れで佐渡に渡る船(ジェットホイール、フェリー)が全て欠航で渡航不能。翌12日には天気も回復、関係者は午前中のジェットホイールで佐渡に渡り、第5局は12日午後から、双方の持ち時間を8時間から7時間に減らして2日制で行われた。
先手となった渡辺は矢倉、振り飛車で黒星を喫したからか、出だし2連勝時の「角換わり」を採用。新趣向を披露した郷田に渡辺がつけ込ませずに押し切り、渡辺3勝、郷田2勝で王将防衛にも王手をかけた。
悪天候によるスケジュール変更は両対局者にとって同条件とはいえ、長考派で知られる郷田は持ち時間は1分でも多いほうがいいはずで、今回のスケジュール変更は郷田への影響の方が大きかったのではないかと思う。

続く、3月19日・20日の第6局は暴風雪に悩まされた佐渡から、早咲きの河津桜で有名な伊豆半島の河津へ移動。先手を持った郷田は「角換わり」を選択。ほぼ、第5局の先後を入れ替えた形になった後手の渡辺が工夫。しかし、先手郷田が優位を築く。しかし、渡辺も粘り情勢は混沌。最終盤、双方1分将棋となる中、入玉した渡辺玉に対し、郷田が詰み手順を逃し逆転負けにつながる痛恨のミス。しかし、渡辺も逆転の一手に気づかず、そのまま郷田が勝利。第2局の逆転負けの逆をいくような結末。これで、双方3勝3敗。

第7局は3月25日からまだ雪の残る青森・弘前で。タイトル戦の場合、第1局開始前の振り駒で、第6局までの先手・後手が決まる。ここまで、奇数局は渡辺、偶数局は郷田先手。第7局まで進んだ場合は、改めて振り駒で先手・後手を決める。確率では若干先手有利の結果が残る中、実力も拮抗するタイトル戦なら、対局者は後手よりは先手で指したいはずだ。
今回は郷田の先手。郷田は、これまで6戦で採用していない得意戦法の一つ「相掛かり」を採用。角を早めの交換する等の新趣向を見せ、一瞬の隙をついて端攻めを敢行。渡辺玉の間近での「と金」作りに成功。その後、猛反撃に転じた渡辺の攻めを受けきり、最後は中央の▲5五に桂馬を打ち、大勢が決した。そこから十手ほどで渡辺が投了。郷田が王将タイトルを初めて手にした。

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(第7局投了図、先手:郷田真隆、後手:渡辺明)

今回の王将戦七番勝負、結果こそ4勝3敗と接戦だが、内容的には郷田九段が充実していた。一方、渡辺王将はいま一つの出来だった。初戦はコンピュータソフトの新手を繰り出す奇襲。2戦目も負けていた将棋を郷田のミスで拾った。5戦目も、悪天候による船の欠航による変則スケジュールで持ち時間1時間減という条件での勝ち。一方、郷田が勝った将棋は、正攻法で臨み、接戦ではあったものの郷田らしい将棋を貫いて勝ち切った内容ばかりだ。渡辺王将も、相手の充実を肌身で感じ、何かと目先を変えようとしてのではないか?初戦こそ成功したものの、あとはあまりうまくいかなかったという印象だ。

40代になって棋王、王将と2つのタイトルを獲得した郷田九段。かつて扇子に揮毫していた言葉は「晩成」だった。3月17日が誕生日の郷田は44歳になった。王将初獲得年齢としては、最も遅いらしい。
このブログのテーマは中年クライシスにどう向かい合うかだった。最強世代と呼ばれた郷田と同年代のプロ棋士たちも、40年代半ばを迎え、名人・竜王の二冠を手にし復活した森内が昨年に二冠とも失い無冠となって、最強世代のタイトル保持者は羽生だけになっていた。郷田が不調の秋を乗り切り、王将タイトルを獲得したことは、森内や無冠が長くなった佐藤にも刺激を与えるだろう。
郷田新王将がタイトル5期の実績の中で実現できていない課題が獲得したタイトルの防衛である。この王将位こそは防衛を果たし、40代後半での「晩成」をファンに見せてほしい。

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2015年3月 1日 (日)

小野不由美著『十二国記』シリーズ (新潮文庫版)を読み終わる

『十二国記』というタイトルは以前から気になっていた。講談社文庫を読んでみようかと思っていながら、なんとなく手に取らないまま過ぎていた。
2012年7月に新潮文庫からエピソード0として『魔性の子』、エピソード1『月の影 影の海』(上下巻)の3冊がまとめて出版された機会に、すぐ買って、引きこまれるようにすぐ読み終わった。
その後は、2ヵ月サイクルで『風の海 迷宮の岸』(エピソード2)、『東の海神 西の滄海』(エピソード3)、『風の万里 黎明の空』(エピソード4、上下巻)、『丕緒の鳥』(エピソード5、短編集)、『図南の翼』(エピソード6)、『黄昏の岸 暁の天』(エピソード7)、『華胥の幽夢』(短編集、エピソード8)が発刊された。
新刊が出るたびに買い求めていたが、エピソード2の『風の海 迷宮の岸』購入後、読み出したが、最初のところで躓いてそのまま読まずに新刊だけがたまっていた。

先月の月初、風邪で体調を崩して仕事を一日休んだ時に、病院で薬をもらったあとは、家で安静にしてるだけなので、この際、積読本がたまっている『十二国記』を読もうと、躓いたエピソード2の『風の海 迷宮の岸』に再び挑戦。改めて読み始めると、一気に進み、二日で読み終わった。その後も、『東の海神 西の滄海』(エピソード3)、『風の万里 黎明の空』(エピソード4、上下巻)、『図南の翼』(エピソード6)、『黄昏の岸 暁の天』(エピソード7)とメインストリーをまず読み、短編集の『華胥の幽夢』(エピソード8)、『丕緒の鳥』(エピソード5)の順で、ほぼ一日1冊のペースで一気に読み終えた。

十二国記は、ハイ・ファンタジーあるいは異世界ファンタジーと呼ばれるジャンルで、作者が独自に作り上げた世界の中で、物語が進行する。その点では「ゲド戦記」や「守り人・旅人」シリーズ(上橋菜穂子)に近い。
純粋なハイ・ファンタジー(異世界ファンタジー)と異なるのは、十二国の世界と蓬莱と呼ばれる日本が繋がる時があり、本来、十二国の世界で生まれるべき命が、日本で生まれ、十二国の世界に戻るという話もいくつかある。現実世界から異世界に行くという点は「ナルニア国」シリーズにも通じるところもあるが、ナルニアの場合、現実から異世界に行き、異世界で活躍したあと、現実世界に戻ってくる往還記であるが、十二国記の場合、むしろ本来十二国で生まれるべき存在が蓬莱(日本)に流されて生まれ、十二国記に戻るという構造だ。

十二国記では、その名の通り、十二の国から成り立つ世界が描かれる。十二の国は、慶、奏、範、柳、雁、恭、才、巧、戴、舜、芳、漣。それぞれの国に王と王を選び補佐する麒麟がおり、各国も王と麒麟を軸にした物語だ。

エピソード0の『魔性の子』は、講談社で出された十二国記のシリーズに先だって新潮社から出されていた現代ホラー小説で、それだけで独立しても十分読めるが、読み進むと十二国のうちの戴国に関わる物語であることが、明らかになってくる。

魔性の子―十二国記 (新潮文庫 お 37-51 十二国記)

魔性の子―十二国記 (新潮文庫)

エピソード1『月の影 影の海』は、慶国に関わる物語。雁国王と麒麟も登場する。

月の影 影の海〈上〉―十二国記 (新潮文庫)

月の影 影の海〈上〉―十二国記 (新潮文庫)

月の影 影の海〈下〉―十二国記 (新潮文庫)

月の影 影の海〈下〉―十二国記 (新潮文庫)

エピソード2『風の海 迷宮の岸』は、再び戴国に関わる物語。慶国の麒麟も登場する。

風の海迷宮の岸―十二国記 (新潮文庫 お 37-54 十二国記)

風の海迷宮の岸―十二国記 (新潮文庫)

エピソード3『東の海神 西の滄海』は、雁国の現国王と麒麟の国作りの話。

東の海神(わだつみ) 西の滄海―十二国記 (新潮文庫)

東の海神(わだつみ) 西の滄海―十二国記 (新潮文庫)

エピソード4『風の万里 黎明の空』は、『月の影 影の海』の後の慶国の話。再び、雁国王と麒麟も登場。芳国、才国の話も登場する。

風の万里 黎明の空〈上〉―十二国記 (新潮文庫)

風の万里 黎明の空〈上〉―十二国記 (新潮文庫)

風の万里 黎明の空〈下〉―十二国記 (新潮文庫)

風の万里 黎明の空〈下〉―十二国記 (新潮文庫)

エピソード6『図南の翼』は、これまでのシリーズとはあまり関わりのなかった恭で国王が選ばれる時のエピソードだ。

図南の翼 十二国記 (新潮文庫 お 37-59 十二国記)

図南の翼 十二国記 (新潮文庫)

エピソード7『黄昏の岸 暁の天』では、これまで別々の流れで語られてきた慶国と戴国が関わり合いになり、雁国王と雁国の麒麟も登場する。

黄昏の岸 暁の天 十二国記 (新潮文庫)

黄昏の岸 暁の天 十二国記 (新潮文庫)

古代中国の春秋戦国時代を彷彿とさせる国名や国の仕組みだが、十二国記では国と国は戦わない。いかに、それぞれの国の麒麟がどのような国王を選び、その国王が国をどうを治めるかがテーマだ。

シリーズ全体として見たときには、エピソード7『黄昏の岸 暁の天』は、物語が完結しておらず、この話の中で語られた謎のいくつかは解明されないままになっており、むしろ前編が終わったという印象だ。現在、作者が書き下ろしている新作長編が、エピソード8の解決編となるのはわからない。

詳しいことを書きすぎるとネタバレになってしまうので、詳しくは書かないが、ファンタジー好きな読者には、お勧めである。

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