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2015年9月の記事

2015年9月22日 (火)

ラグビーワールドカップ2015で、日本が過去2回優勝の南アフリカを破る

世間ではほとんど注目を浴びていなかったことが、ある日を境に突然もマスコミがこぞって取り上げ、一気にに時の人やチームになることがある。スポーツの世界では特に。

2006年のトリノ五輪の女子フィギアスケートで優勝した荒川静香、2008年の北京五輪のフェンシングで銀メダルを獲った太田雄貴など。最近では、4年前の2011年サッカー女子ワールドカップで日本代表が優勝した時がそうだ。ドイツで行われたこの大会の前、世間では女子サッカーはほとんど見向きもされていなかったし、代表チームが日本をいつ出発したか関係者以外は誰も知らなかっただろう。それが、あれよあれよと勝ち進み、準々決勝でドイツを延長の末破って準決勝に進出を決めたあたりから、日本の中でもフィーバーが始まり、「なべしこジャパン」という中で広く知られるようになった。
延長の末米国をPK戦で破り、金メダルを獲得した彼女たちの帰国を、日本中が大フィーバーで迎えたのは、記憶に新しい。

先週9月18日からイギリスで始まった第8回ラグビーワールドカップ。翌19日に行われた予選Bプールの初戦で日本代表チームが過去2回の優勝を誇る強豪南アフリカ代表を34対32にで破り、日本ラグビーの歴史を塗り替えたと新聞テレビで大々的に報じられた。日本国内だけでなく、海外メディアでも番狂わせを意味するGIANT KILLINGやUPSETという単語が目につく。

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(日本ラグビーフットボール協会HPより)

遅ればせながら、NHKBSの再放送で試合開始から終了までの80分をじっくり見た。まず、開始直後、相手の反則で得たペナルティーゴール(PG)をフルバック五郎丸が決めて3点先取のスタート。日本は体格で上回る相手に果敢タックルし、自由にボールを回させない。その後、PG1本失敗後トライ・1ゴールを返され、3-7となって流れが変わるかと心配するが、まったく物怖じすることなく、ドライビングモールからキャプテンリーチがトライを奪い、五郎丸がゴールも決めて10-7と逆転。直後にトライを奪われたが、相手キッカーがゴールを外し、10-12の僅差で前半を終えた。
後半も開始早々、相手反則からのPGを五郎丸が決めて、13-12と再びリード。それもつかの間、相手FWの突進を許し、ゴールも決まって13-19。後半開始直後の6点差のところが一つのポイントだったろう。ここで、次の得点を南アフリカが取っていればゲームがどうなっていたかはわからないが、相手の反則によるPGを五郎丸が確実に決め、16-19、19-19と追いついた。その後、PGを取り合って19-22、22-22と南アフリカがリードすれば日本が追いつくという展開が続き、残り20分。
しかし、南アフリカも強い。後半21分、FWの突進でトライ。ゴールも決めて、22-29。このゲームで初めて1トライ・1ゴールの7点の差が開いた。ここが2つめのポイントだったろう。しかし、日本は正攻法の素早くボールを回し、一歩でも前に進むという基本を徹底し、何度も相手に倒されながらも拠点から展開し、最後はフルバックの五郎丸が走り込んでトライ(後半28分)。自らゴールも決め、三度(みたび)追いついた。
振り払っても、振り払っても追いすがる日本チームに、南アフリカは何を感じただろうか?

後半32分、日本の陣地深くで日本の反則に、南アフリカはペナルティーキックを選択。PGによる3点を加えて、29-32とリードした。前半ではキックせずにトライを狙い回してきたのではないかと思うが、日本の基本に忠実な守りとあきめない攻めの姿勢に、南アフリカも積極策はとれなかった。
ここが3つめのポイントだろう。ここで南アフリカのリードが1トライで逆転可能な3点差にとどまったことで、日本は諦めずに攻め続けることになる。

残り5分を過ぎると、日本が南アフリカを攻め、ゴールラインぎりぎりで南アフリカが耐える時間が続く。38分、南アフリカは日本の攻めに対応しきれず反則で10分間の選手退場というペナルティー。
日本はPGによる2点で同点引き分けの選択をせず、攻め続ける。40分を過ぎても攻めは途切れず、42分に途中交代で入ったヘスケスが各選手がつないで来たボールを相手選手のタックルで外に押し出されながらも、ゴール左隅にダウンボールしてトライ。後半は開始当初のPGでの1点リード以外、追いつくのがやっとだった日本代表だが、最後の最後で34-32と逆転した。すでに40分を回り日本のゴールキックで試合終了は確実で、日本ラグビー史上、それどころか世界のラグビーの歴史にも記録されるであろう戦いの決着がついた。

この日本-南アフリカ戦は、一ラグビーファンとして観戦して、大変見応えのあるおもしろい試合だった。両チームとも、多少の反則はあったが、ラフプレーやアンフェアなプレー、ノッコンも数回と凡ミスもほとんどなく、キック合戦になることもなく、お互いがボールを回す、タックルをするという正攻法で堂々と戦った。これには、それぞれのチームの選手が紳士であったこと、審判のジャッジもどこまでアドバンテージを見るかも含め的確だったのだろう。

今回の日本代表の目標は予選プールで2位以内として、ベスト8に駒を進めることである。明日23日には第2戦となるスコットランド戦、 10月3日にはサモア戦、同11日には米国戦を控えている。この4チームの中で2位以内に入って初めて、本来の目標達成となる。4チームの中で、最もランキングの高い南アフリカの勝ち、勝ち点4を得たことはベスト8に向け、最高のスタートを切ったといえる。残る3戦であと2勝は必要だろう。
ここまで来たら、ベスト8に進んでもらいたい。

日本ラグビーフットボール協会のレビュー

https://www.rugby-japan.jp/2015/09/20/rwc2015_sa_review/

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2015年9月 6日 (日)

マンガ『弱虫ペダル』大ヒットの理由を考える。主人公小野田坂道は指示待ち世代の典型?

NHKBS1で「ぼくらはマンガで強くなった ~SPORTS×MANGA」という番組があり、今年(2015年)の5月31日の放送で、自転車ロードレースとマンガ『弱虫ペダル』(渡辺航作)が取り上げられた。
原作者の渡辺航がどういうきっかけでこの作品を書くことになったのか、日本人で初めてツールド・ド・フランスに参加した新城幸也がこのマンガをどう読んでいるかなど、また『弱虫ペダル』のあらすじも紹介され、数年前から自転車競技に興味を持ち、『弱虫ペダル』の存在も気になっていた私は、すぐに、40冊に及ぶマンガ『弱虫ペダル』を読み始め、40冊を1週間ほどで読み終えた。

弱虫ペダル コミック 1-41巻セット (少年チャンピオンコミックス)

さらに、原作だけでは飽き足らず、アニメ『弱虫ペダル』(全38話) 『弱虫ペダルGRANDE ROAD』(全24話)も、ケーブルテレビのオンデマンドで全話見た。

『弱虫ペダル』の主人公小野田坂道は、アニメおたくの高校1年生。入学した千葉の総北高校で「アニメ研究部」への入部を楽しみにしていたが、人数不足で活動休止。活動再開を目指して部員集めをしている中、ふとしたことから自転車競技と巡りあい、坂登りのスペシャリスト(クライマー)としての素質を見いだされ、総北高校自転車競技部に入部。自転車を中心とした彼の新しい青春が始まる。
自転車でのキャリアは長い今泉、鳴子という2人の同級生。彼らを見守り、育て、ともに戦う3年生のキャプテンでエースの金城、スプリンター田所、クライマー巻島。インターメンバー6人の枠を1年生3人と争う2年生の手嶋、青八木などのチームメイトたち。
さらには、総北高校の前に立ちはだかる高校自転車界の常勝校「箱根学園」。箱根学園にもキャプテン福富、スプリンター荒北・新開、クライマー東堂の4人の3年生、2年生の泉田、1年生の真波など総北の面々に負けず劣らず個性的はメンバーが揃う。
総北、箱学の争いに割って入ろうとする京都伏見の御堂筋には何をやるかわからない狂気が漂う。

「少年チャンピオン」で2008年から連載が始まった『弱虫ペダル』はまだ連載が続いている。
アニメ化されたのでは、コミックでは27巻にあたる主人公坂道の高校1年生のインターハイ終了までだが、マンガの連載はその後も書き継がれ、41巻では坂道が2年生のインターハイでまで進んでいる。発行部数も1000万部を超えたと言われる。
アニメの総集編の映画「弱虫ペダルRe:RIDE」、さらに(2015年)8月下旬には新作の劇場映画も封切られた。

個性的なチームメイトが揃い、強者揃いのライバルたちと戦うというスポーツマンガの王道をいく。一方、これまで一般にはなじみのなかった自転車競技、ロードレースの迫力、スピード感、躍動感、臨場感を見事に表現し、手に汗握る展開に「次はどうなるのだろう?」とページをめくる時に感じるわくわく・ドキドキ感も満載で、大ヒットもさもありなん。読み終えると、自分も自転車に乗ってペダルをこぎたくなる。

不思議なのは主人公小野田坂道の存在だ。彼は、アニメおたくとしては主体的に行動するが、自転車競技では基本的に受け身だ。坂道の坂登りの才能を見いだした同級生の今泉や鳴子の(精神的な)後押しもあり、入部を決意するが、入部後は次々と与えられる課題をこなすだけである。結果的にインターハイでも華々しい活躍をするが、すべてはキャプテン金城から与えられるオーダーを全うしようと全力を尽くした結果に過ぎない。
ここに大ヒットのもう一つの理由がある気がしてならない。主人公小野田坂道に対して、役割も目標も周りが与えてくれる。同級生や先輩に恵まれたからこそ、坂道の存在が光るのだ。
『弱虫ペダル』は、おたくで、ネクラ、あるいは指示待ち世代といわれる現代の若者たち(の一部)の「自分には自分がまだ気づいていない才能や長所があるのではないか?」という思い、「誰かが自分の才能や長所に気がついて、ふさわしい仕事や役割を与えてくれれば、自分ももっと頑張れるのに...」という潜在的な願望を、マンガという形で実現させてみせたから、ヒットしたのではないか?

マンガ『弱虫ペダル』がアニメ化の区切りであった坂道1年生のインターハイ終了時で連載を終了し作品として完結していれば、スポーツマンガとしては完成度も高かったかも知れない。
作者はそこで筆を置かず、書き進めた。そうなると、上級生になった坂道を描かなければならない。2年生になれば、後輩が入部してきて、坂道は先輩として後輩たちの長所を見いだし、育てる役割を果たさなければならない。3年生になればなおさらだ。それを彼が果たせるのか?そのためには、坂道自身の人としての成長が不可欠だ。それとも、坂道は今後も受け身のままで、新キャプテン手嶋や、3年になれば同級生の今泉や鳴子から役割を与えられ続けて、それを果たすだけで生き続けていくのか?
今のままの人から与えられる役割をこなすだけでは、どこかで坂道は壁にぶちあたり、スランプや落ち込みを経験せざるを得なくなるのではないか?
そうなると、物語は単なるロードレースのマンガを超えて、小野田坂道の成長物語を描かなければならない。きちんと答えを出すには、坂道が3年生になるまで描ききらなければ、物語は完結しない気がする。作者渡辺航がどのような選択をするのか?楽しみである。

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