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2021年5月16日 (日)

『戦乱と政変の室町時代』(渡邊大門編、柏書房)を読み終わる

日本史好きだが、室町時代はどうしてもなじみが薄い。高校の日本史の教科書で、政治だけ追いかけていくと鎌倉時代末から南北朝の後醍醐天皇と足利尊氏の争い。南北朝の統一を成し遂げ盤石の室町幕府を作り上げたようなに見える足利義満の時代は、明との勘合貿易そして金閣寺の印象ばかり残る。その後、くじ引きで将軍になった義教は嘉吉の乱で赤松氏に殺害され、将軍の権威は一気に失墜したと思う。その後、義政は政治に関心をなくしたように見え、応仁の乱が始まるが、なぜ、天皇も、将軍もいる政治の中心京都で町中を戦火に巻き込む応仁の乱が起きて、あれほど長く続いたのかも納得できる説明はない。戦国時代に入ると、足利将軍は織田信長に顔色をうかがう存在になってしまう。
本当に、義満の権力は盤石だったのか、将軍の義教がなぜ部下の武将に殺されなければならないのか、前後のつながりや歴史がそのように動いた必然性がよくわからないまま進んでいく。むしろ室町時代は金閣寺や銀閣寺、連歌などの文化、土倉などの経済面の記述の印象が強い。

そのような学校での歴史教育のわからなさもあってだろう、しばらく前には呉座勇一の『応仁の乱』(中公新書)がベストセラーになり話題になった。私自身は、応仁の乱の少し前に関東で始まった享徳の乱を取り上げ峰岸純夫の『享徳の乱 中世東国の三戦争戦争』(講談社現代選書メチエ)が室町期の関東で何が起きていたのか、知識の空白を埋めてくれた気がした。しかし、それでも、まだ室町時代全体は繋がらなかった。思えば、足利尊氏、直義の兄弟が争う「観応の擾乱」から始まり、一族内の複雑な利害関係が絡む室町時代だからこそ、それぞれの乱、政変がなぜ起き、どう決着したのか?それで乱や政変の首謀者に正義はあり、敗者の敗北はやむを得なかったのか?そのあたりの説明がないとなかなか納得できない。

この『戦乱と政変の室町時代』は、鎌倉末、南北朝、室町初期と続く「観応の擾乱」から始まり、「明徳の乱」「応永の乱」「上杉禅秀の乱」「永享の乱」「結城合戦」「嘉吉の乱」「禁闕の変」「享徳の乱」「長禄の変」「応仁・文明の乱」「明応の政変」と12の乱、政変を取り上げ12人の歴史学者がそれぞれの事件を綴る。高校の日本史の教科書では、脚注で終わってしまっているような、あるいは脚注にも取り上げられていないようなものあるが、多くの乱、政変は、それ以前の乱や政変に必ずしも正義はなく、首謀者の権力欲や私怨で起き、敗者の側も納得していないので残党が新たな戦いを起こったりしている。

室町幕府は、足利将軍が君臨するが管領をつとめる細川、斯波、畠山の三管領、侍所の長官をつとめる赤松、一色、山名、京極の四職などの各家が守護大名として各国を治めるが、将軍は常にどこかの一族が強大な勢力になるのを避けるため、常に各家の家督争いなどにつけこみ、陰に陽にどちらかの肩をもち、もう一方の力をそぐ。さらに、将軍家の分家で関東に駐在する将軍の名代である鎌倉公方とも時間の経過とともに、反目し、関東管領(上杉家)に鎌倉公方の監視の役目も負わせ、肩入れする。関東は、鎌倉公方と関東管領が利根川を挟み、東西に分かれて対峙する。鎌倉公方が、鎌倉から古河(こが)に移り古河公方と呼ばれるのも、鎌倉が管領側の支配地域となり帰還できなかったことも大きい。鎌倉公方が幕府と反目し、古河に移る中、京都側が伊豆に堀越(ほりごえ)公方を据えるのも、本来の鎌倉公方は堀越公方と言わんがためであろう。

呉座勇一の『応仁の乱』で、当時の政治情勢が複雑に入り組み、簡単に理解しようとすること自体が無理な話であることがなんとなくわかり、峰岸純夫の『享徳の乱』で、教科書にほとんど書かれない室町時代の関東でも、鎌倉公方を頂点とする主従関係の中で、有力な家でも主従の争いなど様々な興亡があり、その最後を締めくくるように登場するのが後北条氏である。室町将軍の側近だった伊勢家の出身といわれる伊勢新九郎宗瑞(北条早雲)。鎌倉時代に将軍を支える執権だった北条氏にあやかるべく、二代目北条氏綱の時に北条を名乗ったということらしい。
その二冊を読んでもまだ細切れだった室町時代の政治の流れが本書を読んで、大きな流れはつかめた気がする。

室町時代をもう少し理解したいと思う、歴史ファンにはお勧めの1冊だと思う。

 

 

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