「藤原定家『明月記』の世界」(岩波新書、村井康彦著)を読み終わる
久しぶりに、読んだ本の感想を書こうと思う。藤原定家は、学校では、百人一首の選者として、古典の時間に習うが、では、歴史の時間軸では、どの時代に生きた人なのか、自分の中では、きちんと位置づけることができていなかった。
そんな思いこともあって、岩波新書でこの「藤原定家『明月記』の世界」が発刊され、書店に並んだ時、すぐ買ったが、しばらく積ん読になっていた。
NHKBSの歴史番組「英雄たちの選択」の正月スペシャル「百人一首~藤原定家 三十一文字の革命~」の再放送を見て、藤原定家が承久の乱を起こした後鳥羽上皇の命で「新古今和歌集」の編纂を任されたこと、和歌で鎌倉幕府三代将軍源実朝とも交流があったことを知った。
昨年に続き、新型コロナの感染拡大で、GW前に3回目の緊急事態宣言の出た東京では、旅行もままならず、近場の公園に散歩に行くのがせいぜい。何か本でも読むかと思って、積ん読本の中で目についたのが、この「藤原定家『明月記』の世界」だった。
読んでみて、『明月記』が1162年生まれの定家が1180年から1235年までの56年間を書き綴った膨大な個人の日記であり、定家の父藤原俊成、定家本人、子の藤原為家の三代にわたる記録になっていること、56年の日記の中では散逸した部分もあること、定家の末裔が冷泉家として現在も健在であることなど、恥ずかしながら初めて知った。
50年を超える期間の膨大な日記を、250ページほどの新書の中で語るのは大変だったと思う。著者は、歌聖としての定家より、宮仕えの中で一喜一憂する定家、子を持つ親としての定家など、現代の我々でも共感するような人間くさい部分にスポットを当てている。
定家が、極めて自己中心的であったっこと、母親が違う二人の息子のうち、年長で長男にあたる光家には極めて冷淡な対応をし、三男にあたる為家には期待をかけ親バカぶりを隠さないところには驚いた。「英雄たちの選択」で描かれた定家像とは違う人間定家が描かれていた。
歴史上、名を残した人物が必ずしも人間的に優れていたとは限らないということだろう。むしろ、自己中心的で自分の和歌に対する自信があったからこそ、歌聖と呼ばれるほどの業績を残せたのかも知れない。定家は、時代の変わり目である激動の時代に、80歳まで生きている。
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