2009年8月23日 (日)

『獣の奏者』新聞全面広告での松田哲夫氏のコメント

今朝の新聞に『獣の奏者Ⅲ探求編』『同Ⅳ完結編』をメインにした『獣の奏者』シリーズのカラー印刷の全面広告が掲載された。

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版元である講談社が100周年の記念出版作として、本作品をより多くの人に読んでほしいという意気込みが感じられる。

広告には、作者や以前紹介した作家佐藤多佳子のコメントが書かれているが、その中にTBSの「王様のブランチ」で「松チョイ」という書評のコーナーを持つ松田哲夫氏のコメントも載せられていた。(前作の『獣の奏者Ⅰ闘蛇編』『同Ⅱ王獣編』も出版当時同コーナーで取り上げられたことも、前作ヒットの一因だろう。)

松田氏の推薦のコメントは

「これは、いまを生きるすべての人びとに向かって、声高ではないが鮮烈なメッセージを発している物語なのだ。世界ファンタジー史上に残る傑作ではないだろうか。」

やはり、多くの本を読み込んでいる松田氏にとっも、『獣の奏者Ⅲ探求編』『同Ⅳ完結編』の伝えようとするメッセージ性は印象に残るものであったのだろう。

作者の発するメッセージについて、老若男女それぞれの立場で、それぞれの受け止め方、読み方がある作品だと思う。

読後の印象に強さから考えると、今年度の本屋大賞の有力候補だと思うし、「直木賞」など文学作品に贈られる有力な賞を受賞してもおかしくない作品だと思う。一人でも多くの人に読んでほしい作品である。

獣の奏者 (3)探求編
獣の奏者 (3)探求編

獣の奏者 (4)完結編
獣の奏者 (4)完結編

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2009年8月19日 (水)

上橋菜穂子著『獣の奏者』の続編『Ⅲ探求編』・『Ⅳ完結編』は大人のための現実の物語だ

『獣の奏者』の続編『Ⅲ探求編』、『Ⅳ完結編』を読み終わった。前作『Ⅰ闘蛇編』、『Ⅱ王獣編』を上回るスケールで読者に迫り、読者ひとりひとりの生き方を問う物語だ。

獣の奏者 (3)探求編

獣の奏者 (4)完結編

作者上橋菜穂子と新刊に差し込まれたPRのリーフレットには同い年の作家佐藤多佳子の次のようなコメントがある。

「凄い物語だ。痛みと希望の物語だ。異種の生物が共存するこの地球の過去と現在に未来について、思わずにいられない」(佐藤多佳子)

前作では、異形の生物として戦闘に出て他国軍を蹂躙する力を持つ巨大な「闘蛇」を育てる闘蛇衆の村から話は始まる。その「闘蛇」さえ屠ってしまう力をもつ獣の王ともいえる「王獣」。闘蛇衆の村で育った娘エリンは、王獣の美しい姿に魅せられ、王獣の世話をし生態を学ぶうちに、その王獣を操る技を身につける。
エリンの国では、闘蛇軍で国を他国の侵略から守る大公と国の支配者である真王との間に不信感があり、国政は不安定で、それぞれの領民たちも反目している。真王を暗殺しようとするグループもいる。そんな中、闘蛇の天敵ともいえる王獣を自由に操るエリンは否応なく国の政治の波に翻弄される。しかし、前作ではエリンの決意と行動で、物語は一つの結末を迎える。

続編にあたる『Ⅲ探求編』、『Ⅳ完結編』では、前作から10年以上が過ぎ、エリンは一児の母となっている。ある闘蛇衆の村で起きた闘蛇の集団での変死の原因追及にエリンが派遣されるところから、続きの物語は始まる。
危険な兵器ともなる闘蛇や王獣には、育てる際に数々の掟や禁忌(タブー)がある。なぜ、そのような掟や禁忌があるのかを、解き明かそうエリンが東奔西走する『Ⅲ探求編』。掟や禁忌の秘密が明らかになりかけるが、しかし、現実の動きがエリンに謎解きの時間を与えない。隣国がエリンの国リョザ神王国を攻めてきたのだ。掟や禁忌(タブー)の背景にある過去の出来事を解き明かせないまま、国を守るためエリンも立ち上がる。そして物語の結末へ向けて、『Ⅳ完結編』は流れていく。

『Ⅲ探求編』、『Ⅳ完結編』を通じて、人が生きることの意味、学ぶことの意味、、親子のあり方、夫婦のあり方、国のあり方、政治のあり方、戦争とは何かといった多くのテーマが語られる。その内容は、児童文学、ファンタジーといった枠組み・ジャンルを超えている。現在の混乱する日本という国のあり方、そこで生きる我々ひとりひとりへの問いかけであり、作者の考える答えでもある。

私が読んで、深く印象に残ったフレーズを紹介しておきたい。いずれも、エリンが母親として息子のジェシに語る言葉だ。

「人の一生は短いけれど、その代わり、たくさんの人がいて、たとえ小さな欠片(かけら)でも、残していくものあって、それがのちの世の誰かの、大切な発見につながる。……きっと、そういうものなのよ。顔も知らない多くの人たちが生きた果てにわたしたちがいて、わたしたちの生きた果てに、また多くの人々が生きていく……。」(『獣の奏者 Ⅳ完結編』51ページ)

「人は、知れば、考える。多くの人がいて、それぞれが、それぞれの思いで考え続ける。一人が死んでも、別の人が、新たな道を探していく。------人という生き物の群れは、そうやって長い年月を、なんとか生き続けてきた。
知らねば、道は探せない。自分たちが、なぜこんな災いを引き起こしたのか、人という生き物は、どういうふうに愚かなのか、どんなことを考え、どうしてこう動いてしまうのか、そういうことを考えて、考えて、考え抜いた果てにしか、ほんとうに意味ある道は、見えてこない……」(『獣の奏者 Ⅳ完結編』294ページ)

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2009年8月17日 (月)

上橋菜穂子『獣の奏者』続編(Ⅲ探求編、Ⅳ完結編)登場と既刊(Ⅰ闘蛇編、Ⅱ王獣編)の文庫化

2ヵ月ほど前に、子ども向けの講談社青い鳥文庫で文庫化された『獣の奏者』の既刊(Ⅰ闘蛇編、Ⅱ王獣編)を4冊に分冊化したものを読み始めたことを書いたが、期待に違わないおもしろさで、あっという間に読み終わってしまった。
途中、主人公の少女エリンが蜂飼いの男ジョウンに救われ、しばらく世話になるのだが、彼は養蜂で生活しており、エリンが興味深くミツバチの生態を観察する場面が出てくる。ちょうど『ハチはなぜ大量死したのか』を読んだばかりで、ミツバチの生態を詳しく知った直後でもあったので、その場面もよく調べられ、書き込まれているのがわかった。
既刊の2冊は、各巻の名前にも成っている「闘蛇(とうだ)」と「王獣(おうじゅう)」という2つの架空の獣を中心に展開し、そこに主人公エリンの母とエリンが絡んでいく。さらにエリンの住む国は、大公領と真王領とに別れ、そこでの政治のあり方と「闘蛇」と「王獣」は関わっており、エリンもまた国の政治に関わらざるを得なくなってくる。
国のあり方を丹念に描き、国の政治のあり方に個人の生き方が翻弄される様にリアリティを持たせる作者の力量は、「守り人&旅人シリーズ」でもすでに証明済みだが、既刊の『獣の奏者』でも裏切られることはなかった。

土曜日、都心まで外出する機会があり、帰り道書店に寄ったところ、新刊コーナーになんとその『獣の奏者』の続編となる『Ⅲ探求編』『Ⅳ完結編』が並べられていた。さらに既刊の『Ⅰ闘蛇編』『Ⅱ王獣編』が講談社文庫から文庫化され並んでいた。青い鳥文庫の4冊はいずれ手放せばいいと思い、新刊のハードカバー2冊 (『Ⅲ探求編』『Ⅳ完結編』)と文庫2冊(『Ⅰ闘蛇編』『Ⅱ王獣編』)を購入した。

獣の奏者 (3)探求編
獣の奏者 (3)探求編

獣の奏者 (4)完結編
獣の奏者 (4)完結編

獣の奏者 1闘蛇編 (講談社文庫)
獣の奏者 1闘蛇編 (講談社文庫)

獣の奏者 2王獣編 (講談社文庫)
獣の奏者 2王獣編 (講談社文庫)

2冊で完結したはずの『獣の奏者』の続きを、なぜ書くことになったかについては、ハードカバーの『Ⅳ完結編』の巻末にさらっと、文庫版『Ⅱ王獣編』の巻末に詳しく書かれている。文庫版を参照すると

(1)2009年が100周年である講談社の編集者から新作執筆を依頼されたこと
(2)(同い年で)敬愛する作家佐藤多佳子が2冊の読者として「もっと、読みたい・・・…。この完璧な物語の完璧さが損なわれてもいいから」と書いているのを読んで、エリンをはじめ作中の人物たちが生きているのだと思い、と少し気持ちが動いたこと

そして決定打として、『獣の奏者』がこれも2009年の50周年を迎えるNHK教育テレビでアニメ化が決まったことをあげている。
アニメ化のため監督や脚本家とともに、自ら執筆した物語『獣の奏者』を解体し、組み立て直す作業に着手し、その過程で『獣の奏者』の世界がより深くまで見えてきて、作者としても続きを書きたいという思いが噴出し、1年半で沸きだし『Ⅲ探求編』『Ⅳ完結編』の2冊を一気に書き上げたと書かれている。

一度完結したはずの物語が、再び書き継がれるという点は再執筆までの期間の長さは異なるものの、ファンタジーの名作『ゲド戦記』シリーズを思い起こさせる。ゲド戦記は、主人公の魔法使いゲドの少年期、青年期、壮年期を描く『影との戦い』『こわれた指輪』『さいはての島へ』が1968年~1971年に書かれる。壮年のゲドが力を使い尽くしたところで、『さいはての島』は終わるのだが、その後1990年にゲドが故郷へ帰る『帰還』、さらに2001年に『さいはての島』でゲドと旅をした王子アレンを中心にした『アースシーの風』で、ゲドたちが生きるアースシーの世界が深く語られる。

『獣の奏者』の世界も、作者上橋菜穂子の作り出した世界であるが、すでに作者の手を離れ一つの世界として多くの人びとの脳裏の中で現実世界としてとらえられているということなのだろう。
作者は、

「物語としては完結しているのに、この先を知りたいという読者の声が絶え間なく届くのは、エリンたちが物語の中で「生きてしまった」からなのかもしれない。エリンが、(中略)その後どう生きたのか、それを知りたいのかもしれない、そして、それを世に送り出せるのは私だけなのだと思ったとき、「エリンのその後」を書いてみようか、という思いが、頭をもたげてきたのでした。」(講談社文庫『獣の奏者 Ⅱ王獣編』462ページ)

と書いている。

すぐれたファンタジーといものは、作者さえ世界の観察者、語り手に換えてしまうのかもしれない。
再び『獣の奏者』の世界に浸れることを楽しんで読みたいと思う。

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2009年8月 8日 (土)

上橋菜穂子が語る「プロフェッショナルの魅力」(文庫版『神の守り人 下-帰還編-』あとがきから)

夏休みシーズンを狙ってか、しばらく出版されていなかった新潮文庫版の上橋菜穂子「守り人&旅人シリーズ」の第5作・第6作にあたる『神の守り人 上-来訪編-』と『神の守り人 下-帰還編-』が、新潮文庫の2009年8月の新作のラインナップに加わった。

神の守り人〈上〉来訪編 (新潮文庫)

神の守り人〈下〉帰還編 (新潮文庫)

結果的に10作の及ぶ大河物語となった「守り人&旅人シリーズ」の折り返しとなる『神の守り人』上下巻は、主要な登場人物である女用心棒のバルサや皇太子チャグムが暮らす「新ヨゴ皇国」に隣接し、今後の物語の展開の中でも大きな役割を果たす「ロタ王国」が舞台である。ここでは、あらすじを述べることが目的ではないので、そちらに関心のある方は、私が昨年(2008年)2月に、偕成社の軽装版『神の守り人』上下巻を読んだ時に書いた記事を参照いただければと思う。(2008年2月14日:上橋菜穂子著『神の守り人(上)来訪編』、『神の守り人(下)期帰還編』を読み終わる

ここで紹介したいのは、今回の文庫用に書かれた著者上橋菜穂子さんの「文庫版あとがき」である。「プロフェッショナルの魅力」と題されたあとがきは次のようなものである。

著者は自らが作り上げた「守り人」シリーズの主人公バルサを心底好きだとと語り、その魅力の核は、彼女がプロフェッショナルであることと続く。そして、『精霊の守り人』、『獣の奏者』が相次いでアニメ化されたことで、著者は様々な分野のプロフェッショナルと仕事をする機会を得たとし、上橋流プロフェッショナル論が開陳される。

プロになるということは、「他者から頼られるようになる」ということを意味します。この人に任せておけば大丈夫、と全幅の信頼を寄せられ、それに応えて仕事を成し遂げねければならない。
全幅の信頼を受けるというのは、恐ろしいことです。
完全な人間などいませんし、プロでも失敗することはあるでしょう。それに、物事には不測の事態はつきものですから、知識や能力に加えて、どんな事態にも対応できる柔軟性が必要で、さらには仕事の総体という「構造物」の屋台骨を支える覚悟がなければ務まりません。
そういう修羅場をいく度も踏んでいくうちに、責任を負うのを当然のこととして、どんな状況になっても立っていいられるようになっていくのではないでしょうか。そうやって仕事に磨かれ、自分に出来ることと出来ないことを悟るようになった人は、甘い幻想に逃げることをせずに、淡々と、自分が出来ることを成し遂げていけるのではないかと思うのです。
プロであるという自意識が過剰になり、己の物差しを過信してしまうとかえって視野が狭くなってしまうことがありますが、多くの経験をし、「過信の怖さ」を骨身に沁みて知っている人には静かな謙虚さがあって、私はそういう人に強い魅力を感じるのです(新潮文庫版『神の守り人 下 -帰還編-』319~320ページ)

著者の上橋さん自身、物語作りの プロフェッショナルだと思うが、プロフェッショナルが見たプロフェッショナルの姿といえよう。
このようなプロフェッショナルに一歩でも近づきたいものである。

このような「あとがき」は、やはり軽装版には書かれないだろう。結局、軽装版と文庫版の2種類の「守り人&旅人シリーズ」を揃えることになりそうだ。

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2009年6月30日 (火)

茂木健一郎著『セレンディピティの時代』を読み終わり、上橋菜穂子著『獣の奏者』を読み始める

数日前に紹介した『クラウドソーシング』を読み終わったあとは、ちょっと趣向を変え講談社文庫の2009年6月の新刊『セレンディピティの時代』(茂木健一郎著)を読んだ。「月刊KING」という雑誌の連載記事に手をいれて、新たな章も加え、文庫化したものだ。サブタイトルが「偶然の幸運に出会う方法」。『会社に人生を預けるな』に続いて読んだ勝間本の『起きていることはすべて正しい』にも「セレンディピティ」という言葉が使われていた。自分で行動し、何かに出会い、そのことに気づき、その結果を受け入れていくことが、幸運をつかむきっかけになるというもの。作者は、何かの出会ったことに気づく「心の余裕が必要」と語っている。

セレンディピティの時代―偶然の幸運に出会う方法 (講談社文庫)

このブログを書き始めた頃取り上げた、河合隼雄著『大人になることのむずかしさ』の中の一節「深い必然性をもったものほど、人間の目には一見偶然に見えるといってもよく、そのような偶然を生かしてゆく心の余裕をもつことが、(中略)必要であろう。」とも通じる部分があり、興味深かった。

獣の奏者〈1〉 (講談社青い鳥文庫)

『セレンディピティの時代』のあとは、久しぶりに上橋菜穂子ファンタジー『獣の奏者』を読み始めた。もともと2年ほど前ハードカバー上下2冊で出版され、NHKでアニメ化もされた人気作。通勤電車で読むには分厚く重たいので、文庫化されるのを待っていたら、講談社青い鳥文庫で上下2冊を4冊に分けて文庫化された。4冊が出揃ったところでまとめて買い、第1巻だけずっと鞄に入れていたが、いよいよ、今日から読み始めた。
さっそく、上橋ワールドに引きこまれ、第1巻の半分ほど読んだ。しばらくは、楽しめるだろう。

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2008年12月25日 (木)

上橋菜穂子著『天と地の守り人第三部』を読む

軽装版で読み続けてきた上橋菜穂子「守り人&旅人」シリーズ。先日、シリーズ9作目に当たる『天と地の守り人 第二部 カンバル王国編』を読み終わり、残るは1冊だけとなり、これまでの例にならえば軽装版の第10作の出版を待つところだが、結末を早く知りたいので、地元の図書館で単行本で『天と地の守り人 第三部』(新ヨゴ皇国編)を借りてきた。

天と地の守り人〈第3部〉 (偕成社ワンダーランド)

今日、田舎から連れてきた母親を病院に連れて行くために仕事を休んだので、病院で待っている間、一気に読み上げた。

前々作で、このシリーズを主役の2人、女用心棒のバルサと新ヨゴ皇国の皇太子チャグムがロタ王国で再会、前作では2人でバルサの故郷カンバル王国に向かう。カンバル王国で、南の大国タルシュ帝国に狙われ危機にある新ヨゴ皇国を救うため、チャグムはカンバル王からとロタ王国の同盟の約束を取り付ける。
前作の最後で、バルサとチャグムの2人は分かれ、バルサは新ヨゴ皇国に向かい、チャグムは同盟を実現するため、ロタ王国に戻る。

本作では、新ヨゴ皇国に戻ったバルサ、ロタ王国で同盟を成し遂げたチャグムの新ヨゴ皇国への凱旋という2つの軸で話が進む。ロタとカンバルの援軍を率いて新ヨゴの王宮に戻ったチャグムを巡る宮殿内での人間模様、幼なじみのタンダを探すバルサ。2人のどちらが、本作の主役かといえばチャグムであろう。父である王から疎まれたチャグムが苦難の旅の末、故郷に凱旋したチャグムの運命の行く末が本作の最大の見所だろう。

10冊にわたった「守り人&旅人」シリーズがこれで終わり、もう読むものがないというのが何とも寂しい限りだ。

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2008年11月30日 (日)

守り人&旅人シリーズ第9弾、上橋菜穂子著『天と地の守り人第二部』軽装版発売

先週金曜日(2008年11月28日)に、いつも会社の帰りに立ち寄る書店に寄り、児童文学のコーナーに行くと、ようやく上橋菜穂子さんの守り人&旅人シリーズの軽装版の9冊目『天と地の守り人第二部』が並んでいた。もちろん、さっそく購入。

天と地の守り人〈第2部〉 (軽装版偕成社ポッシュ)
天と地の守り人〈第2部〉 (軽装版偕成社ポッシュ)

前作で、ロタ王国で新ヨゴ皇国の皇太子チャグムと女用心棒のバルサが再会、バルサの故郷であるカンバル王国へ向かうところで終わる。
そして、今回はそのカンバルでの物語である。

まだ、解説と最初の数ページしか読んでいないが、今週の通勤電車では退屈せずに時間が過ごせそうである。

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2008年10月 4日 (土)

守り人&旅人シリーズ第8作『天と地の守り人 第一部』(上橋菜穂子著)を読み終わる

10月に入り、上橋菜穂子さんの「守り人&旅人」シリーズの最後を締めくくる『天と地の守り人』三部作の第一部ロタ王国編が軽装版で登場した。

天と地の守り人〈第1部〉 (軽装版偕成社ポッシュ)
天と地の守り人〈第1部〉 (軽装版偕成社ポッシュ)

『精霊の守り人』から始まった守り人&旅人シリーズの面白さにすっかりはまってしまい、第1作の『精霊の守り人』を新潮文庫で読んで以来、文庫が待ちきれず、それより速く出版される偕成社の軽装版が出版されたところですぐ買って読み継いできた。

女用心棒バルサと彼女に助けられた新ヨゴ皇国の皇太子チャグムの物語も歴史大河小説の趣を醸し出している。これまでの物語の中で、新ヨゴ皇国の周辺のカンバル王国、サンガル王国、ロタ王国、タルシュ帝国の歴史や内情が語られてきた。そして、各国を巡る国際政治情勢が2人の運命を翻弄していく。

前作『蒼路の旅人』で海を隔てた南の強国タルシュ帝国に捕虜として捕らわれ、その野望を知った新ヨゴ皇国の皇太子チャグムは、タルシュ帝国から新ヨゴ皇国に送り返される途上、ある思いを抱いて船から海に身を投げ、行方知れずとなる。
本作『天と地の守り人 第一部』では、チャグムはタルシュ帝国の捕虜になる前に戦死したことになっており、新ヨゴ皇国ではすでに葬儀も行われている。
女用心棒バルサは、彼女あてに託された手紙を受け取り、チャグムが死んでいないことを知り、チャグムを探すため、ロタ王国に向かう。
チャグム探しの旅の中で、バルサにもチャグムを取り巻く複雑な国と国との駆け引き、国の中での主導権争いなどが少しずつ明らかになっていく。
バルサはチャグムを探し出すことができるのか…?

いつもながら読み始めると、ぐいぐいと物語の世界に引き込まれ、ほとんど1日で読み終わってしまった。この物語もあと2冊、読みおわってしまうのが、もったいないような、でもはやくどういう結末になるのか知りたいような、読者としては複雑な心境である。

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2008年7月 1日 (火)

上橋菜穂子著『蒼路の旅人』を読み終わる

上橋菜穂子著「守り人&旅人シリーズ」の第7巻『蒼路の旅人』を先週末に、家の近所の書店で見つける。旅人シリーズは、かつて女用心棒バルサに命を助けられた新ヨゴ皇国の皇太子チャグムが主人公の物語である。

蒼路の旅人 (偕成社ポッシュ 軽装版)

チャグムも15歳を迎え、皇太子として国の重要な会議にも関わるようになってくる。皇太子としてチャグムの人気が出てくる一方、弟トゥグムも生まれ、帝である父からは疎んじられ、国の上層部では、チャグム派とトゥグム派に分かれて、派閥争いの兆しも見え始める。
かつてチャグムが外交使節として訪ねた(『虚空の旅人』)隣国サンガル王国は、海を隔てた南方のタルシュ帝国に攻められ戦争が始まっている。
今回の『蒼路の旅人』は、そのサンガルの王から新ヨゴ王国に援軍を求める書簡が届くところから、物語が始まる。
対応策を協議する御前会議で思わず父である帝に意見するチャグム。チャグムの母方の祖父で、宮廷でのチャグムの支援者であるトーサ海軍大提督とともに、援軍として送られることになった船団に加わることを帝から命じられてしまう。

援軍の依頼そのものが、すでにタルシュ帝国に寝返ったサンガル王国の罠かも知れないと懸念される中、祖父トーサ提督とともにサンガルに向けて出航するチャグム。
船には、チャグムの護衛という名目で乗船しているものの、何か事が起きれば、帝からチャグムの暗殺を命じられているに違いない「王の盾」の2人もいる。
チャグムは死を覚悟して旅に出るが、そこには彼自身が思いもしなかった、困難が待ち受けていた…。

本作は、いずれは帝となり国を預からなければならない皇太子チャグムの自らの宿命をどう受け止めるかという物語であり、少年が大人へと成長していく物語でもある。軽装版の解説を書いた著者と同い年の作家佐藤多佳子は、「シリーズ十巻の中では、私は、この『蒼路の旅人』が一番好きだ。(中略)最大の魅力は、やはり、皇子チャグムが繊細な少年から、もがき苦しんで脱皮して、心身ともに強靱な若者にかわりつつある、その課程のみずみずしさだ。チャグムは、シリーズ全編にわたって、大きな困難に立ち向かい、ぎりぎりのところで打ち勝っては成長していくことを運命づけられている登場人物だが、その変化がいちばん鮮やかで印象に残るのが、この『蒼路の旅人』である。」(『蒼路の旅人』軽装版385ページ)と述べている。
私はまだシリーズ7冊しか読んでいないが、まさにこの解説の通りだと思う。繊細な少年から強靱な若者への成長譚と言えば、ゲド戦記の第1巻『影との戦い』にも通じるものがあるし、また陸上競技を舞台の一人の少年の成長を描いた佐藤作品『一瞬の風になれ』とも、ファンタジーとスポーツ小説という舞台の違いはあれ、深いところでは共鳴しているように思う。

読み始める前の期待を裏切らない、いや期待以上の作品であった。

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2008年2月14日 (木)

上橋菜穂子著『神の守り人(上)来訪編』、『神の守り人(下)期帰還編』を読み終わる

上橋菜穂子著『神の守り人(上)来訪編』、『神の守り人(下)期帰還編』の2冊をようやく読み終わった。いつもながら、この作者の物語を作る力量には驚かされる。

神の守り人 上 来訪編  (偕成社ポッシュ 軽装版)

神の守り人 下 帰還編 (偕成社ポッシュ 軽装版)

著者の「守り人&旅人」シリーズの5冊め、6冊目となる今回の主人公はシリーズの主役女用心棒のバルサ、そしてバルサに寄り添う幼なじみの呪術師タンダ。

恐ろしい出来事で母を亡くしたロタ王国の少女アスラとその兄チキサの2人はだまされて、新ヨゴ皇国の人身売買の組織に売られそうになるが、アスラの持つ不思議な力で難を逃れる。しかし、人買い商人とは別に、ロタ国から2人を追ってきた者たちがいる。たまたま、宿で2人と一緒になったバルサとタンダ。さらわれようとした2人を助けようとして、バルサとアスラは逃げだし、タンダとチキサは追っ手に捕らえられる…。

こうして、手に汗握る冒険譚が始まるが、今回はロタ王国の建国にまつわる言い伝え、ロタ王国の一触即発の政治状況、それらを背景にしたスケールの大きな謀(はかりごと)が巡らされている。読み進むうちに、少しずつ、そのからくりが明らかになっていく時のワクワク感は、「守り人&旅人」シリーズならではである。

さらに、今後のシリーズのストーリー展開の伏線として、前作の『虚空に旅人』でも登場した海の南のタルシュ帝国の存在感も語られている。
また、作中、ロタ王国のヨーサムは、隣国サンガル王国の新王即位の儀式に呼ばれて国を弟のイーハンに託して旅立ち、国を留守にするが、これは前作『虚空の旅人』で新ヨゴの皇太子チャグムが呼ばれた式典と同じ式典のはずだ。

次の『蒼路の旅人』が待ち遠しい。

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