2016年1月11日 (月)

第65期王将戦七番勝負第1局、郷田真隆王将が最強の挑戦者羽生善治名人に完勝

昨年(2015年)1月~3月の第64期王将戦七番勝負で渡辺明前王将と激闘の末、4勝3敗で王将位を奪取した郷田真隆王将。ファンとしては、王将戦リーグ3回目のプレーオフして初めて挑戦権を獲得し、七番勝負のタイトル戦で3勝3敗となった7戦目に初めて勝利しての44歳にして5回目のタイトル獲得はうれしい限りだが、あと一つこれまでの負の記録を払拭してほしいことがある。
過去4回のタイトル獲得(王位、棋聖、棋聖、棋王)があるものの、そのすべてで翌年のの防衛戦に敗れ、一期でタイトルを失っているという記録である。多くの負の記録を払拭した昨年の王将戦に続き、今回こそはタイトル初防衛を果たしてほしいというのが、ファンの切なる願いである。

郷田王将への挑戦者を決める第65期の挑戦者決定リーグ戦は、前王将の渡辺棋王、羽生善治名人、佐藤康光九段、深浦耕市九段という前期からのリーグ残留組に、糸谷哲郎竜王(当時)、森内俊之九段、久保利明九段という7名の強豪が名を連ねた。郷田以外の全タイトル保持者が含まれ、なおかつ第45期以降前期まで20年間の王将タイトル獲得者5名全員(羽生、佐藤、森内、久保、渡辺)が揃うという豪華な顔ぶれだ。
この中で、第7戦が抜け番の久保が羽生に敗れた以外は勝って最終一斉対局を前に6勝1敗でプレーオフ以上を決め、高見の見物。4戦目まで糸谷に敗れて3勝1敗の羽生が5戦目の抜け番を終えた時点で、羽生以外は挑戦の可能性がなく、羽生が残り森内、渡辺に連勝するして初めてプレーオフという久保が相当有利な状況となった。
しかし、羽生はここから森内、渡辺を連破、プレーオフで久保も粉砕し、王将挑戦を決めた。2015年度は保持するすべての4つのタイトルを防衛し、久しぶりの五冠王となるべく2年ぶりに王将戦七番勝負に登場した。郷田王将にとっては、過去6回タイトル戦を戦い、勝ったのは棋聖戦のわずか1回だけ。4回ある七番勝負はすべて敗れているという相手。まさに最強の挑戦者の登場だ。

一方の郷田王将は、王将タイトル獲得後、不調だった。王将戦後に控えるタイトル戦の予選は、前期王将戦七番勝負と並行して行われていたA級順位戦は残留争いで名人挑戦レースからは既に脱落、王座戦も前期七番勝負中に2次予選敗退。棋聖戦、竜王戦、王位戦、棋王戦といずれも挑戦者決定戦のかなり前の段階で敗退している。竜王戦では長らく維持してきたランキング戦1組16名から2組に降級。また5月から8月にかけ5連敗で、後ろ向きの話題が多かった。
NHK杯ベスト8に勝ち残っているのと、新棋戦の叡王戦では決勝三番勝負まで進んだが、その叡王戦も山崎八段の前に勝ち筋がありながら、勝利をものにできず連敗で栄冠を逃した。2015年4月~12月の9ヵ月で対局数21局10勝11敗というタイトルホルダーとしてはやや物足りない成績で王将戦七番勝負を迎えることになった。

しかし、郷田王将はそんな細かいことは気にしていないだろう。どうすれば、七番勝負のうち、羽生名人に4回勝ってタイトル防衛を果たせるか。それだけを考えて、年を越したに違いない。

2016年1月10日、11日の2日にかけて行われる第65期王将戦七番勝負第1局の舞台は、いまや王将戦第1局の定番となっている静岡県掛川市の掛川城二の丸である。掛川市松井市長の振り駒で郷田の先手が決まる。
多少なりとも有利といえる先手番で確実に勝つことが防衛には必須。郷田にとっては負けられない第1局となった。戦型は矢倉に進む。
郷田が手数を省略して早々に玉を矢倉で囲おうとする「早囲い」の気配を見せると、羽生が許すまじと先端を開く。1日目の午後には駒がぶつかる展開。郷田の早囲いを咎めようとする羽生の指し手に対し、郷田は2日目初手で飛車を七筋に寄せ、玉と飛車が並ぶ形で対抗。羽生の仕掛けから飛車交換となったが、双方持ち合った飛車を相手陣に打ち込んで竜はできたものの底歩に阻まれどちらも大暴れはできない。一方、角の働きでは、自陣にとどまった羽生の角に対し、羽生の竜に追われながらも羽生陣に成り込み馬となった郷田の角。徐々に先手有利から優勢に傾く中で、87手目、郷田が▲6六馬と△2二の羽生玉をにらむ攻防の要の位置に馬を引きも戻したところで、羽生の投了となった。
振り返ってみれば、郷田の完勝。郷田の早囲いを咎めようとする羽生に手のどこかにに緩手があったののだろう。そこをすかさず、見逃さず押し切った郷田。初防衛に向け、幸先のよい1勝となった。残り6戦でなんとか3勝して念願のタイトル初防衛を果たしてほしい。

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87手目▲6六馬まで

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2015年5月19日 (火)

第64期王将戦就位式、祝・郷田真隆王将!

今日は、有給休暇を取って東京ドームホテルで行われた郷田真隆王将の就位式・祝賀パーティーに参加した。
郷田ファンの私にとって、郷田九段の5度目のタイトル獲得はめでたいことこの上ない。特に、この64期王将戦七番勝負はドラマチックな場面も多く、単にファンとしてうれしいという以上の何かを感じさせてくれる番勝負であった。

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今回の王将位獲得の伏線は、昨年第63期に遡ると私は思っている。王将戦の挑戦者になるには、7人総当たりの挑戦者リーグで優勝しなければならない。これはA級順位戦以上の狭き門であり、前年のリーグ上位4名が残留し、そこに2次予選を勝ち上がった3名が加わる。前期残留者は前期成績で1位から4位までの順位がつき、2次予選からの勝ち上がり組は、5位で3名が並ぶ。リーグ戦の結果、下位3名が陥落するが、その際同成績の場合は、順位が低い方が陥落となる。これまで、郷田九段は15回挑戦者リーグに参加しているが、2次予選を勝ち上がったものの、残留者と同成績ながら順位差での陥落も多かった。
昨年の第63期挑戦者リーグも2次予選勝ち上がりの順位5位。3勝2敗どうしの対戦となった最終戦の深浦九段(順位2位)戦。勝って4勝2敗なら残留、負けて3勝3敗なら順位3位の豊島七段を上回れず陥落という勝負に勝って4勝2敗(順位3位)で残留を決めた。
2次予選からの参加だと、まずはリーグ参加を勝ち取ることが目標となるが、リーグ残留なら、残留者3名と2次予選組3名の顔ぶれを眺めて、対策を練る時間がある。
王将戦の挑戦者リーグの定員が8名から7名の減った第31期以降第64期までの34回を見ると、リーグ残留者上位4名が挑戦者となったのが23回、2次予選組から挑戦者が出たのが11回である。残留者が1名多いことを加味しても、やはり残留者の方が結果を出しやすい面はあるのだろう。

対策が奏功いたのかどうかわからないが、郷田九段は今期のリーグ戦では、羽生、佐藤、屋敷、深浦と強豪を破って4連勝。5戦めを迎える時点で、残る豊島戦、三浦戦で1勝すれば挑戦決定というところまでこぎ着けた。しかし、その後2連敗で羽生名人に追いつかれ、年末12月25日のプレーオフとなった。
4連勝2連敗で、羽生名人に追いつかれたら、普通、流れは羽生である。しかし、ここで勝ち、挑戦権を獲得したところから、第64期王将戦の郷田劇場は始まっていたようだ。

とはいえ、相手は羽生名人と互角以上の成績を残す新世代の雄「渡辺明」。郷田自身も2年前棋王戦五番勝負で1勝3敗でタイトルを奪われた。その後の対戦成績も分が悪い。
今日の就位式で挨拶した谷川浩司将棋連盟会長も、「郷田さんが勝つのは難しいのではないかと思っていた」と語った。
周囲も渡辺乗りが多い中、第1局は完敗、第2局は優勢に進めていた将棋を好機を逸して逆転負け。特に、第2局の負け方を見て、これは郷田九段が4タテを食らって敗退と誰もが思ったに違いない。

今日の郷田九段の挨拶では「年末のプレーオフから第1局(1月11日)まで、ほとんど日がなく、何の準備もできないまま臨んだ。」と語っていた。
それでも、タイトル戦を戦う中で、徐々に調子を取り戻したのだろう。角換りで2敗のあと、第3局渡辺(先手)の矢倉に一矢報い、第4局渡辺(後手)の四間飛車を粉砕した。
これが、棋王戦や棋聖戦のような五番勝負であれば、2連敗したところでカド番となり、精神面でも追い詰められ、逆転できたかどうかはわからない。七番勝負だったことが幸いした面はあるだろう。

第3局、第4局とも郷田将棋の内容もよく、第2局も優勢だったことを思うと、シリーズ中盤時点では、内容的には郷田リードの印象が強かった。素人目には、第4局勝ちたい渡辺王将が振り飛車を選択したところに渡辺王将の焦りのようなものを感じた。同時並行で進んでいた渡辺vs羽生の棋王戦五番勝負の影響もあるだろうが、純粋居飛車党で振り飛車破りに定評のある郷田九段に四間飛車で挑んだのは、タイトル戦巧者の渡辺王将としては戦略ミスだったような気がしてならない。

4局終わって2勝2敗。2連敗後の2連勝で、流れは郷田にありと思ったが、残る3局は記憶に残る勝負となった。
第5局は3月でありながら季節外れの暴風雪でスケジュール通り会場の佐渡入りができず、持ち時間が1時間減るという変速対局。
第5局も再び角換りをなった戦いは郷田有利に進めながら、勝ちのチャンスを見逃して逆転負け。とうとう後がなくなった。

そして迎えた伊豆・河津町での第6局。将棋世界の2014年度の10局の第2位に選ばれた対局だ。このシリーズ4回めの角換りとなり、途中まで郷田有利。しかし、郷田九段も決めきれない。双方の脳髄を絞りきったような勝負手が次々と飛び出し、ネットを通して観戦する側も手に汗握る。1分将棋となってもハイレベルな応酬は続く。最後に消耗著しい両者を象徴するように郷田九段の見落としを渡辺王将も見落として、郷田九段に勝利が転がり込んだ。ほぼ、同時期に棋士と将棋ソフトが戦う電王戦も行われていて、決して将棋ソフトならしないであろうミスがトップ棋士二人の間で起きたところに、観客はソフトとは違う人間らしいドラマを見たように思う。

第7局に持ち込まれた七番勝負、振り駒で郷田九段が先手。郷田九段はこのシリーズ初めての相掛かりを選択。なんとかリードを保って、青森・弘前の地で王将位のタイトルを渡辺明から奪取した。2年前の棋王戦の借りを返した。

今日の就位式の挨拶でも「今回の七番勝負は完全燃焼し悔いはない」と語った。今回の王将戦七番勝負は、郷田王将にいくつかの初めてをもたらした。まずは、初めての王将タイトル。王将戦史上では、初獲得の年齢としては最年長の44歳。
そして、大きな自信となったであろうのは、七番勝負で3勝3敗となったあとの第7局での初勝利。過去、羽生への王位挑戦(第35期)、2度の名人挑戦(65期対森内、67期対羽生)の3回で3勝3敗の第7局で敗れている。リアルタイムで観戦した2度の名人挑戦の第7局は、いずれも淡泊な終わり方で、どうしても名人タイトルを取るんだ取りたいという執念が感じられなかった気がする。
しかし、今回の王将戦では七番勝負を通して、棋譜からどうしても王将のタイトルが取りたい、取るんだといううめき声が聞こえるようだった。「完全燃焼」という言葉にその思いが込められているように思う。

今日の挨拶からも、この王将戦で来年も七番勝負を戦えることを棋士冥利に感じている姿とだからこそ来期も良い内容の将棋で勝ちタイトル防衛を果たしたいという意思がにじみ出ていた。

タイトル獲得5期以上の棋士は、将棋界の歴史の中でこれまで16人しかいない。現役では羽生90期、谷川27期、渡辺15期、佐藤(康)13期、森内12期、加藤一二三8期、南7期と続き、久保5期、高橋道雄5期のと並んだ。まずは、次の防衛戦を確実にものにして6期とし歴代13位としてほしい。8期となれば、過去10人。できれば、同世代の森内12期、佐藤13期の成績には肩を並べてほしいものだ。

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2015年3月29日 (日)

郷田真隆九段、44歳で5回目のタイトル王将を獲得

昨年(2014年)12月25日に行われた第64期王将戦挑戦者リーグのプレーオフで羽生善治名人に勝って、渡辺明王将への挑戦権を獲得した郷田真隆九段。

2015年の正月気分もまだ抜けない1月11日(日)静岡県掛川市で第64期王将戦七番勝負が開幕した。

挑戦者の郷田は1971年3月生まれの44歳。羽生善治名人、森内俊之九段とは同級生で奨励会同期。奨励会同期には年齢では1歳上の佐藤康光九段もいる。また、奨励会には遅れて入ったものの、その後プロ棋士となりタイトルを取った丸山忠久九段、藤井猛九段も同級生で彼ら同世代の集団を、将棋界では「最強世代」、「羽生世代」と呼んでいる。
郷田自身は、これまで、王位1期、棋聖2期、棋王1期とタイトル4期を獲得しているが、羽生が90期、佐藤が13期、森内が12期のタイトルを獲得し、羽生が19世名人を含む6つの永世位、佐藤が永世棋聖、森内が18世名人の永世称号まで獲得していることと比較されるとタイトル4期も見劣りしてしまう。なんとか1つでも多くのタイトルを獲得・防衛しその差を詰めていきたい。
また、40代になって10年ぶりに獲得したタイトル棋王を2年前、郷田から奪ったのは、渡辺である。郷田にしてみれば、その借りを返したいという思いも強いに違いない。

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(第7局終局後の郷田九段、毎日新聞HPより)

一方、現在、棋王・王将の2タイトルを有する渡辺は1984年生まれ。現在でも将棋界に君臨する羽生に勝ち越している数少ない棋士であり、前人未踏の竜王タイトル9連覇を果たし、棋界唯一人の「永世竜王」資格の保持者でもある。最強世代の後続の世代が、最強世代の厚い壁を越えあぐねる中、ただ一人、最強世代と互角以上に渡り合い実績を残している次世代のエースだ。
渡辺としては、羽生が現在、名人・王位・王座・棋聖の4タイトルを保有し、依然として将棋界のトップに君臨する中、現在の棋王・王将の2タイトル保持した上で、3つめのタイトルを羽生から奪い、少なくとも羽生と肩を並べたいところ。今回、王将戦の挑戦者は郷田だが、一方、同時期に行われる棋王戦五番勝負では羽生の挑戦を受ける。

年末のプレーオフで羽生に勝ち王将挑戦を決めたものの、11月、12月と郷田は不調で9戦して3勝6敗。6敗のうちにはA級順位戦での2敗も含まれ、A級は2勝4敗で降級圏内。年明けからのA級順位戦の3局と王将戦七番勝負を平行して戦わなければならない。

1月11日・12日に行われた静岡・掛川での第1局は先手の渡辺王将が「角換わり」を選択。途中、これまでプロ棋士の間では指されていない、コンピューターソフトが指したとされる新手を繰りだした。劣勢を意識した郷田の粘りも及ばず敗退。渡辺1勝。

1月22日・23日に島根・安来での第2局も「角換わり」に。この間、15日に行われたA級順位戦第7局で郷田は深浦九段と戦い苦しい将棋を逆転で勝利してA級残留に一歩前進している。王将戦では、先手郷田が有利に進めているいるように思われた中盤戦だったが、持ち時間が少なくなる中、郷田にミスが出て逆転負けを喫した。郷田にとっては勝っておきたかった一番だった。渡辺2勝。

1月29日・30日の第3局は栃木・大田原が戦場。先手の渡辺は矢倉を選択。郷田も矢倉は得意とするところで、堂々と受けて立ち、がっぷり四つの戦い。どちらも大きなミスはなかったように思われた内容だったが、「いつの間にか悪くなっていた」と渡辺がぼやく内容で郷田の勝利への執念がようやく結実。渡辺2勝、郷田1勝とひとつ返した。

1月に3局組まれた王将戦だが、2月からは渡辺がもつもう一つのタイトル棋王戦の五番勝負も始まるほか、2月6日、3月1日にA級順位戦の8回戦、9回戦の一斉対局が行われるため、2月は王将戦は1局、棋王戦が2局というスケジュールが組まれた。

棋王戦の第1局(2月11日)と第2局(21日)に挟まれた2月16・17日の王将戦第4局。郷田は2月6日のA級第8局で森内九段にも勝って4勝4敗と五分まで星を戻したが、今期A級順位8位の郷田は、今年の混戦のA級ではまだ残留は決まらない。それでも最終戦の阿久津八段戦に勝てば自力残留が決まるところまで挽回した。
一方の渡辺もA級では三浦八段に勝ち名人挑戦への可能性をつなぎ、続く棋王戦第1局は羽生を破って王将戦第4局に臨んだ。
第4局では後手の渡辺が今シリーズ初の振り飛車である四間飛車を採用。しかし、生粋居飛車党の郷田は振り飛車破りのスペシャリストでもある。途中、千日手の可能性がささやかれる場面もあったが、郷田が打開し、渡辺を押し切った。渡辺2勝、郷田2勝の五分に戻し、改めて3月12・13日の第5局からの三番勝負となった。

渡辺は2月21日の棋王戦第2局でも羽生に勝ち、棋王防衛に王手。3月1日のA級順位戦の最終局では、郷田は阿久津八段に勝ち5勝4敗のA級6位で残留確定。渡辺も挑戦を争う久保九段に勝ち6勝3敗で名人挑戦者を決める4者プレーオフに勝ち残った。3月8日の棋王戦第3局でも渡辺は羽生を降し、3連勝で棋王を防衛。しかし、10日に行われたA級順位戦のプレーオフでは最終局で勝った久保に負かされて名人挑戦の目は消えた。

残る将棋界の年度内のビッグイベントは王将戦のみ。残り3局は3月11日・12日の第5局から、毎週1局のハイペースでスケジュールが組まれている。

第5局の前日の3月11日、天気は全国的に大荒れ。北海道、東北、北陸地区は暴風雪。第5局対局場は佐渡島。通常、タイトル戦前日には対局者含む関係者は現地入りし、会場や駒盤の検分、前夜祭などに参加するが、この日は海も大荒れで佐渡に渡る船(ジェットホイール、フェリー)が全て欠航で渡航不能。翌12日には天気も回復、関係者は午前中のジェットホイールで佐渡に渡り、第5局は12日午後から、双方の持ち時間を8時間から7時間に減らして2日制で行われた。
先手となった渡辺は矢倉、振り飛車で黒星を喫したからか、出だし2連勝時の「角換わり」を採用。新趣向を披露した郷田に渡辺がつけ込ませずに押し切り、渡辺3勝、郷田2勝で王将防衛にも王手をかけた。
悪天候によるスケジュール変更は両対局者にとって同条件とはいえ、長考派で知られる郷田は持ち時間は1分でも多いほうがいいはずで、今回のスケジュール変更は郷田への影響の方が大きかったのではないかと思う。

続く、3月19日・20日の第6局は暴風雪に悩まされた佐渡から、早咲きの河津桜で有名な伊豆半島の河津へ移動。先手を持った郷田は「角換わり」を選択。ほぼ、第5局の先後を入れ替えた形になった後手の渡辺が工夫。しかし、先手郷田が優位を築く。しかし、渡辺も粘り情勢は混沌。最終盤、双方1分将棋となる中、入玉した渡辺玉に対し、郷田が詰み手順を逃し逆転負けにつながる痛恨のミス。しかし、渡辺も逆転の一手に気づかず、そのまま郷田が勝利。第2局の逆転負けの逆をいくような結末。これで、双方3勝3敗。

第7局は3月25日からまだ雪の残る青森・弘前で。タイトル戦の場合、第1局開始前の振り駒で、第6局までの先手・後手が決まる。ここまで、奇数局は渡辺、偶数局は郷田先手。第7局まで進んだ場合は、改めて振り駒で先手・後手を決める。確率では若干先手有利の結果が残る中、実力も拮抗するタイトル戦なら、対局者は後手よりは先手で指したいはずだ。
今回は郷田の先手。郷田は、これまで6戦で採用していない得意戦法の一つ「相掛かり」を採用。角を早めの交換する等の新趣向を見せ、一瞬の隙をついて端攻めを敢行。渡辺玉の間近での「と金」作りに成功。その後、猛反撃に転じた渡辺の攻めを受けきり、最後は中央の▲5五に桂馬を打ち、大勢が決した。そこから十手ほどで渡辺が投了。郷田が王将タイトルを初めて手にした。

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(第7局投了図、先手:郷田真隆、後手:渡辺明)

今回の王将戦七番勝負、結果こそ4勝3敗と接戦だが、内容的には郷田九段が充実していた。一方、渡辺王将はいま一つの出来だった。初戦はコンピュータソフトの新手を繰り出す奇襲。2戦目も負けていた将棋を郷田のミスで拾った。5戦目も、悪天候による船の欠航による変則スケジュールで持ち時間1時間減という条件での勝ち。一方、郷田が勝った将棋は、正攻法で臨み、接戦ではあったものの郷田らしい将棋を貫いて勝ち切った内容ばかりだ。渡辺王将も、相手の充実を肌身で感じ、何かと目先を変えようとしてのではないか?初戦こそ成功したものの、あとはあまりうまくいかなかったという印象だ。

40代になって棋王、王将と2つのタイトルを獲得した郷田九段。かつて扇子に揮毫していた言葉は「晩成」だった。3月17日が誕生日の郷田は44歳になった。王将初獲得年齢としては、最も遅いらしい。
このブログのテーマは中年クライシスにどう向かい合うかだった。最強世代と呼ばれた郷田と同年代のプロ棋士たちも、40年代半ばを迎え、名人・竜王の二冠を手にし復活した森内が昨年に二冠とも失い無冠となって、最強世代のタイトル保持者は羽生だけになっていた。郷田が不調の秋を乗り切り、王将タイトルを獲得したことは、森内や無冠が長くなった佐藤にも刺激を与えるだろう。
郷田新王将がタイトル5期の実績の中で実現できていない課題が獲得したタイトルの防衛である。この王将位こそは防衛を果たし、40代後半での「晩成」をファンに見せてほしい。

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2014年12月26日 (金)

郷田真隆九段、2つの三度目の正直で王将挑戦へ

2014年のクリスマス(12月25日)、第64期王将戦挑戦者リーグのプレーオフで郷田真隆九段が難敵羽生善治名人を破り、渡辺明王将への挑戦者に名乗りをあげた。

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(毎日新聞HPより)

挑戦者リーグでは出だしで佐藤康光九段、羽生名人と強敵に連勝。さらに屋敷伸之九段にも勝ち、3連勝対決の深浦康市九段戦にも快勝。リーグ気戦の日程の都合で、6回戦の郷田vs豊島戦の前に、他の対局者の6回戦が終了、1敗で郷田九段を追っていた羽生名人、深浦九段がともに敗れ、1敗がいなくなった。残り2戦で1勝すれば挑戦が決定と「マジックナンバー1」状態となった。しかし、そこから将棋の神様は郷田九段に厳しい仕打ちをする。対戦成績では分のいい豊島将之七段、三浦弘行九段にあえなく連敗。内容も4連勝時の将棋と比べると良くなかった。圧倒的優位に立って挑戦権獲得を意識してしまったのかもしれない。2勝2敗から2連勝した羽生名人に羽生名人に並ばれプレーオフとなった。

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郷田九段は王将戦挑戦者リーグの常連で今から20年以上前になる第43期に初めてリーグ入り。以降22年間で15回リーグ入りし、そのうち2回、第44期と第52期にプレーオフまで駒を進めている。しかし、いずれも羽生現名人に阻まれ、挑戦に至らなかった。

郷田九段は、一昨年度にあたる昨年2月に当時の渡辺竜王に10年ぶりに獲得したタイトル棋王を奪われた。昨年度は棋聖戦、王座戦、竜王戦で挑戦者決定戦まで進みながら敗退。NHK杯では初優勝を果たしたが、A級順位戦では最終戦で敗れ、陥落した屋敷九段と同じ3勝6敗ながら順位差でかろうじて陥落を免れるという戦績。今年も王将戦の挑戦者リーグまでは、NHK杯選手権者として臨んだNHK杯では初戦敗退、タイトル戦の予選でも目立った成績を残せていない。王将戦リーグで深浦九段に勝ったあとは、同リーグでの豊島七段、三浦九段戦での連敗、ベスト4に残った棋王戦の挑戦者決定トーナメント敗者復活戦で深浦九段に敗退、A級順位戦でも広瀬八段に敗れ、4連敗。今年度29戦で14勝15敗とうとう星一つ負け越しになってこのプレーオフを迎えた。不調と言われてしかたない。

郷田ファンからみても、今期好調の羽生名人相手がプレーオフの相手ということで諦め半分。ましてリーグ戦、プレーオフと羽生に連勝という結果は予想しがたく、下馬評も羽生有利だったに違いない。振り駒の結果、手番も後手。厳しい条件ばかりだ。不調は本人も自覚していたようで、「いい内容の将棋を指したい」という思いで臨んだようだ。

相矢倉となった戦いは、難解で、なかなか優劣がつかない。棋譜中継のコメントを見ると解説のプロ棋士たちの形勢判断は、中盤以降の駒のぶつかり合いから終盤にかけて、先手の羽生名人が少し良いということだったが、将棋ソフトの「激指11」の検討モードで遡って検証してみると、中盤から終盤の最初はむしろ後手の郷田九段が微差でリードしていた。その後、盤面の中央で金銀がぶつかりあい、やりとりが激しくなる中で、若干先手リードに変わったか?という程度だった。

最終盤では、「激指11」が示す候補手にはない勝負手も飛び出し、ソフトの検討レベルが上がる都度優劣の評価が入れ替わり、「激指11」も自分のデータの蓄積のない手の評価に時間がかかっているようだった。

将棋界のトップクラスの頭脳がつばぜり合いする戦いの中では、体調、残り時間の多寡などが、一手一手の判断に微妙に影響してくるのだろう。3日前の22日に棋王戦挑戦者決定二番勝負第1局で深浦九段と戦い、棋王挑戦を決めて間もない羽生名人と12日のA級順位戦6回戦で広瀬八段の敗れたあと、対局が2週間近くなかった郷田九段の差も無視できないだろう。最後には、諦めずに食らいついていった郷田九段に軍配が上がった。

郷田九段は、昨年のように二つの棋戦の挑戦者決定戦まで進みながら、どちらも負けるというここ一番に弱いという面も見せる。2012年の棋王戦で10年ぶりタイトル獲得や、昨年、2つの挑戦を逃したあとのNHK杯優勝、そして今回のマジック1から2連敗したあとのプレーオフで羽生名人に勝って挑戦決定と、もう期待するのはやめとこうと思う頃、サプライズを見せてくれるので、やっぱり郷田ファンをやめられない。

今年の王将リーグ戦で4連勝でマジック1となって3戦目のプレーオフでようやく挑戦を決めたこと、44期、52期と2度のプレーオフで敗れた羽生との3度目のプレーオフに勝ち王将初挑戦を決めたということで、2つの三度目の正直が重なった。

最後まで諦めず、土壇場からの踏ん張りで勝利をものにするという心意気で七番勝負では渡辺明王将からタイトルを奪取し、2年前の棋王戦の雪辱を果たしてほしい。

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2014年5月31日 (土)

第27期竜王戦、郷田真隆九段、今年もランキング戦1組4位で決勝トーナメント進出

昨年度は、棋聖戦、王座戦、竜王戦と3つのタイトル戦で挑戦者決定戦まで進みながら、いずれもタイトル挑戦はならなかった郷田九段。
年度末にはNHK杯での初優勝という栄冠をつかむ一方、A級順位戦では残留のかかった最終9回戦に敗れ、降級した屋敷九段と同じ3勝6敗ながら順位の差でA級8位でかろうじて残留というヒヤリとする場面も経験した。

その後も竜王戦のランキング戦1組では2回戦で阿久津八段に敗れ4位決定戦に回ることになった。年度開け早々の棋聖戦決勝トーナメント2回戦では、新鋭菅井竜也五段に敗れ、挑戦の可能性が消えた。

その後、新年度に入り4人出争う竜王戦の1組4位決定トーナメント1回戦ではライバル丸山忠久九段を破り、4位決定戦に駒を進めた。相手は佐藤康光九段。こちらも同世代のライバル。昨年の竜王戦では挑戦者を決める決勝トーナメントで激突し、1組4位の郷田が1組優勝の佐藤を蹴散らして挑戦者決定三番勝負に進んだ。

今回は4位決定戦での対戦。先手の郷田に対し、後手の佐藤はダイレクト向かい飛車を採用。将棋ソフトの激指の分析機能を使って棋譜を再生させてみたが、最初は一進一退で駒組が続く。中盤、駒組みの段階では後手有利との評価、先手の郷田が主導権をとって攻めを続けるが、依然、後手有利の評価が続いたが、佐藤の受け手に緩手があったか、一気に先手有利になり郷田が詰めろを続けるが、 一端自陣の手を戻したところで、今度は後手が攻勢。しかし、これも敵陣で働いていた馬を守りの薄い自陣に引き戻したところで、ほぼ互角へと目まぐるしく評価が入れ替わる。その後、郷田が王手を続け、佐藤玉の守り駒を剥がして玉を丸裸にしたところで郷田の王手が小休止する。詰めろの状態だが、王手をかけて佐藤が反撃に転じた、形勢の評価も後手有利となったが佐藤も決めきれず、郷田陣で働いてなかった飛車が5筋に回りが詰めろを賭けて以降は、佐藤九段にチャンスはなかったようだ。

郷田九段は、昨年同様1組4位を決め、決勝トーナメントの準々決勝から登場となる。準々決勝を勝てば、準決勝で1組優勝の羽生名人との戦いとなる。何とか、難敵を倒し、挑戦者決定三番勝負も勝って、森内竜王へ挑み、ビッグタイトルを手にしてもらいたい。

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2014年3月23日 (日)

祝・郷田真隆九段第63回NHK杯将棋トーナメント優勝!

今日放送された第63回NHK杯将棋トーナメント決勝で郷田真隆九段が丸山忠久九段を破って優勝。
昨年3月に棋王のタイトルを渡辺明に奪われてから、棋聖戦、王座戦、竜王戦と挑戦者決定戦まで進みながら敗退。その無念を、このNHK杯優勝でようやく晴らすことができた。

羽生世代と言われるメンバーの中では、羽生善治三冠が10回、森内俊之竜王・名人が2回、佐藤康光九段が2回優勝していて、今日の決勝の相手、丸山忠久九段が1回優勝経験がある。

早指し戦のひとつJT杯では3連覇の記録を持つ郷田九段、しかし、NHK杯は準優勝とまり。ようやく優勝の栄冠をつかみ、同世代に肩を並べることができた。これを機に、1回と言わず、2回、3回と優勝回数を重ねてもらいたい。

Gouda

第63回NHK杯将棋トーナメント決勝の棋譜(丸山九段vs郷田九段)

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2014年3月15日 (土)

郷田真隆九段、第63回NHK杯将棋トーナメントで決勝進出

毎年4月から3月のサイクルで行われるNHK杯将棋トーナメント。3月に入り、残る棋士は4名に絞られた。昨年の優勝者渡辺明二冠は初戦の2回戦で広瀬章人七段(現八段)に敗れ早々に戦線離脱、過去10回の優勝で名誉NHK杯の資格を有する羽生善治三冠も準々決勝で若手の大石六段に敗れ姿を消している。

その中で、私が応援する郷田真隆九段は2回戦で永瀬拓矢五段、3回戦で高橋道雄九段、準々決勝では激戦の末、難敵森内俊之竜王・名人を激戦の末破り、ベスト4に残った。2年連続のベスト4入りだが、昨年は準決勝で羽生三冠に敗れ、二度目の決勝進出はならなかった。

今回、準々決勝まででタイトルホルダーが敗れており、残っているのは郷田九段、丸山九段の実力派二人。そこに羽生三冠に加え、行方八段、屋敷九段とA級棋士3名を破った大石六段と、谷川九段と豊島将之七段、村山慈明六段(現七段)の若手実力者を破った西川和宏四段の若手棋士二人が割って入る。

準決勝での郷田九段の相手は、西川四段。残った四人の中でA級棋士は郷田九段一人。ここは、準決勝、決勝と連勝して初優勝を手にしたいところだ。
先手となった振飛車党の西川四段は三間飛車に美濃囲い、後手の郷田九段は居飛車穴熊で守りを固めて対抗する。
中央でつばぜり合いが続くが最初に攻め込んだのは西川四段。多少の駒損に目をつぶってどんどん、郷田玉の守り駒を剥がしていき、穴から玉をいぶり出した。西川玉はまだ美濃囲いの中で安住している。しかし、100手前後で西川四段の猛攻も切れ気味となり、100手過ぎから郷田九段の反撃が始まった。そこから二十数手で西川四段を投了に追い込み、決勝進出を決めた。
郷田九段の決勝進出は第49回以来14年ぶり。その時は決勝で鈴木大介五段(当時)に敗れている。決勝の相手は、準決勝で大石六段を破った丸山忠久九段。同じ学年であり、同時期に四段昇段を決め、その後も死闘を繰り広げてきたライバルである。タイトル獲得こそ、郷田が先行したが、順位戦の昇級では常に郷田が後塵を拝してきた。対戦成績でも分がが悪い。

今年度は、棋聖戦、王座戦、竜王戦の3タイトル戦で挑戦者決定戦まで進みながら、いずれも敗れた郷田九段、1年の締めくくりとなるNHK杯では優勝で締めくくり、1年を気持ちよく終えてほしい。

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2013年12月 3日 (火)

第63期王将戦挑戦者決定リーグ最終7回戦で、郷田真隆九段が深浦康市九段に勝ってリーグ残留を決める

先週、6回戦を終えたばかりの王将戦挑戦者決定リーグ戦。毎期、最終戦で挑戦者が決まることが多いので、最終7回戦で三局同日開催となっている。今季は6回戦を終えたところで、5勝負けなしの羽生善治三冠の挑戦がすでに決まっており、最終戦の関心はまだ、リーグ残留・陥落が決まっていない深浦九段、豊島七段、郷田九段のうちの誰が残留し、誰が陥落するかである。

ここまでの成績は
5勝0敗
羽生善治三冠(今期リーグ順位4位)
3勝2敗
佐藤康光九段(同1位)、深浦康市九段(同2位)
豊島将之七段(同3位)、郷田真隆九段(同5位)
1勝4敗
久保利明九段(同5位、陥落決定)
6敗(全日程終了)
谷川浩司九段(同5位)

王将戦の挑戦者決定リーグ戦は、前期リーグの上位4名とその期の二次予選勝ち抜き者3名の計7名で行われる。総当たりで7回戦、毎回1名抜け番がでる。7回戦が抜け番となったのが谷川九段。残る6名の7回戦の組み合わせは、
羽生vs豊島、佐藤vs久保、深浦vs郷田である。

現在すでに、下位2名が確定した久保、谷川は陥落が決まり、3勝2敗の4名の成績次第ということになるが、同成績となった場合は、その期のリーグ順位が優先する。そのため、今期のリーグ順位1位の佐藤九段は7回戦に負けて3勝3敗となっても、自分より下位の深浦、郷田の直接対決があり、両者のどちらかが3勝3敗となることが確実なので、すでにリーグ残留は決まっている。

3勝2敗の3名の結果は3パターンになる
深浦vs郷田戦:深浦勝ち→豊島の勝敗にかかわらず深浦、豊島が残留、郷田が陥落
深浦vs郷田戦:郷田勝ち+豊島勝ち→郷田と豊島が残留、深浦が陥落
深浦vs郷田戦;郷田勝ち+豊島負け→郷田と深浦が残留、豊島が陥落
今期の二次予選勝ち抜きでリーグ5位で参加の郷田九段にとっては、残留のためには自力で勝つ選択肢しかない。

深浦vs郷田戦は郷田九段の先手。郷田九段の指しなれた戦法のひとつ横歩取りに進む。定跡通りの展開から先手の郷田九段が積極的に攻めに出て、金・桂馬との交換で飛車を切って、深浦陣を乱す。序盤から中盤にかけては郷田リードで終始進んでいたように見える。中盤から終盤にさしかかるところで、思い切って攻め合えば深浦九段にも追いつくチャンスがあったようにも見えたが、郷田の序盤の飛車切りに対し、深浦は飛車切りや敵陣への飛車の打ち込みのタイミングを逃すなどの逸機があり、結局、序盤からの差が縮まらないままだった。特に、深浦九段が郷田玉の脇腹近くにまでもぐり込ませることに成功し攻めの拠点となる「と金」を、守りの金で払われたあとは、深浦九段のチャンスはなかったようだ。郷田九段は終盤の寄せの場面でも、取り戻した飛車を竜にした後、切って一気に寄せきった。
飛車の使い方で差がついた一局だったように見えた。郷田九段はリーグ戦を4勝2敗で終え、第52期以来久々のリーグ残留を決めた。

残る2局のうち、佐藤vs久保戦は佐藤勝ち、羽生vs豊島戦は羽生勝ちで終わり、最終成績は以下の通りとなった。

1位:羽生善治三冠:6戦全勝(王将位挑戦)
2位:佐藤康光九段:4勝2敗(今期リーグ順位1位)
3位:郷田真隆九段:4勝2敗(今期リーグ順位5位)
4位:深浦康市九段:3勝3敗(今期リーグ順位2位)
以上4名リーグ残留。以下3名がリーグ陥落。
5位:豊島将之七段:3勝3敗(今季リーグ順位3位)
6位:久保利明九段:1勝5敗
7位:谷川浩司九段:6戦全敗

結局、深浦九段は郷田九段に敗れたものの、残留を争う豊島七段も敗れたため3勝3敗で並び、今期のリーグの順位差で陥落を免れた。

来期第64期では郷田九段に挑戦者となってほしいものだ。

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2013年11月28日 (木)

郷田真隆九段、第63期王将戦挑戦者決定リーグ戦6回戦で佐藤康光九段を破り、リーグ残留に望みをつなぐ

大詰めを迎えた第63期の王将戦挑戦者決定リーグ。現在は最終7回戦前の6回戦。既に、羽生善治三冠が5連勝でリーグのプレーオフ以上を決めている。
残る6回戦の対局は3勝1敗で2番手につける佐藤康光九段とここまで2勝2敗の郷田真隆九段の対戦と、豊島将之七段(2勝2敗)と谷川浩司九段(5敗)の対戦。

ここまでのリーグの成績は
5勝:羽生三冠、3勝1敗:佐藤九段、3勝2敗:深浦九段(6回戦は抜け番)、2勝2敗豊島七段、郷田九段、1勝4敗:久保九段、5敗:谷川九段。参加者7名中上位4名が残留、下位3名が降級するこの王将戦挑戦者リーグ。
すでに、ここまで5敗の谷川九段と4敗目を喫した久保九段は既にリーグ陥落が決まっている。
一方、挑戦目前の羽生三冠と前王将で今期のリーグ順位1位で3勝している佐藤九段のリーグ残留はすでに決まっている。

今日の佐藤vs郷田戦で、佐藤が勝てば羽生とのプレーオフの可能性が残る。郷田九段は今日自分が負けて、豊島vs谷川戦で豊島が勝って3勝目をあげると、順位の関係で7回戦を待たずにリーグ陥落が決まる。
佐藤は挑戦の可能性を残すために、郷田は残留の可能性を残すために、ともに負けたくない対局だ。

佐藤が先手で始まった将棋は▲3四歩、△7六歩とお互いに角道を開けた展開から横歩取りへと進む。定跡に沿った展開を経て、細かい応酬が続く。昼食休憩あけの佐藤に緩手と思われる手が出る。その後、飛車交換をする展開となり、序盤の応酬から、一気に終盤戦の様相。若干郷田有利か?との展開となり、郷田九段は着々と攻め駒を機能させ、佐藤陣に迫る。郷田有利となったあとは、着実に差を広げた感じで、最後は一気に寄せに持ち込んで、郷田が快勝した。
夕方の時点で、すでに豊島が谷川を破っていたことから、郷田は負ければ陥落が決まるところだった。

郷田が佐藤に勝ったことで、最終7回戦を残して1敗者がいなくなり、ここまで5勝の羽生が最終戦を残して挑戦者に決まった。郷田が3勝2敗とし、最終戦の残留をかける。

6回戦を終ったところでのリーグの成績は
5勝:羽生三冠(挑戦決定)
3勝2敗:佐藤九段(順位1位)、深浦九段(同2位)、豊島七段(同3位)、郷田九段(同5位)
1勝4敗:久保九段(陥落)、6敗:谷川九段(陥落、7回戦は抜け番)

7回戦は、羽生vs豊島、佐藤vs久保、深浦vs郷田の組み合わせ。郷田は深浦に勝てば4勝2敗で残留となるが、負けると現在の3勝者の中で最も順位が低いことから、他者の成績にかかわらず、陥落が決まる。豊島は郷田が勝って、自分が負けると陥落。深浦は郷田に負け、豊島が勝った場合に陥落となる。

郷田九段には7回戦も勝って、第52期リーグで残留を決めて以来のリーグ残留を決めてほしいものだ。

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2013年9月 6日 (金)

郷田真隆九段、第63期王将戦二次予選で菅井竜也五段を破り挑戦者リーグ入りまであと1勝

9月2日に行われた第26期竜王戦の挑戦者決定三番勝負第2局で森内俊之名人にいいところなく敗れ、挑戦者決定は9日の第3局に持ち越しとなった郷田真隆九段。

第2局敗戦の余韻も残るであろう中、竜王戦挑戦者決定の大勝負の前に、第63期王将戦の二次予選が入った。
前期リーグ入りしていた郷田九段は、シードで二次予選2回戦からの登場。相手は、一次予選で4人を破り、二次予選1回戦でも郷田のライバル丸山忠久九段を破ってここまで勝ち上がってきた関西若手のホープの一人菅井竜也五段。言わずと知れた、振り飛車党の成長株。
受けて立つ郷田は居飛車党の重鎮。一時期、ゴキゲン中飛車に手を焼いたが、超速▲3七銀戦法という有力な対抗策が出てきてからは、ゴキゲン中飛車も苦にしなくなったように思える。郷田の振り飛車破りが炸裂してのが、昨年(2012年)2月~3月に行われた第37期棋王戦五番勝負。振り飛車党の旗頭だった久保利明棋王(当時、現九段)に挑戦し、久保後手ではゴキゲン中飛車、久保先手では石田流三間飛車で4戦を戦い、初戦で久保のゴキゲン中飛車に敗れたものの、残り3局はほぼ完封と言っていい内容で棋王位を奪取した。その鮮やかな勝ちっぷりは郷田ファンとしてはたまらない内容だった。

今回の相手菅井五段は久保九段に大きく影響を受け、関西で久保の後継者とも言える存在。今回の郷田戦は公式戦初手合いと思われるが、密かに先輩久保の敵討ちを心していたかもしれない。

振り駒で郷田先手となった本局は、後手の菅井五段がゴキゲン中飛車に構え、郷田九段が超速▲3七銀で対応するという構図になった。いつもなら、▲3七から▲4六への進出した銀がどんどん前線へ進出し大暴れするのが郷田将棋の真骨頂だが、今回は相手の△4五歩の突き出しに▲5七銀と切っ先をかわして自陣に戻った。最終的にこの銀は戦場を柔軟に動き回り、相手の攻めの銀と交換。さらに、その交換で持ち駒となった銀を飛車取りで相手陣に打ち込み、飛車を捕獲するという大役を果たした。
守りでは、郷田九段が穴熊寸前まで固めたに対し、菅井五段は美濃囲いで対抗。しかし、郷田は銀との交換で手にした飛車を菅井陣に打ち込み、早々に竜を作り、あっというまに美濃囲いを崩して、菅井五段を投了に追い込んだ。

郷田九段はこれで今期、21戦で14勝7敗。勝率0.667。9日の竜王戦挑戦者決定三番勝負最終局を前に、2日の黒星のダメージを消すいい薬になったのではないだろうか。
まずは、9日の森内名人との大一番に勝利して、渡辺竜王へのリベンジに名乗りをあげてもらいたい。
一方、王将戦二次予選では、次回の高橋道雄九段戦に勝てば、挑戦者リーグ入りが決まる。
前期はリーグに残留した豊島七段、羽生三冠と同じ3勝3敗だったものの順位差で陥落の憂き目を見た郷田九段。こちらも、まず高橋九段を破ってリーグ復帰を決め、渡辺王将へ挑戦権をつかんでほしいものだ。

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